売れすぎて補助金も尽きかけるほど人気の「サクラ」
2022年7月に発売開始されるやいなや、予想を越える売れ行きにより、9月末には納期予定が1年先にまで達してしまった軽BEV(バッテリーEV)の日産「サクラ」。このため日産は受注の一時停止を発表するに至っている。
この人気には、車両の魅力だけではなく、55万円という国(経済産業省)のCEV補助金の存在が大きく影響しているのは間違いないところだが、これもまた予算が今月(2022年11月)中旬には尽きるとの発表がなされている。この補助金は、購入車両の初年度登録がなされたうえで受けられるものなので、すでにサクラを契約済みであっても、今後の納車を待っている人の大半は、現状では補助金は受け取れないということにもなってしまう。
あとは都道府県に加えて区や市などでも、それぞれ独自に補助金の交付を行っているところもある。ただ、額として一番大きいのは国からのCEV補助金であり、いま納車待ちの人への対応がどうなるのか、来期の予算や時期についても発表を待つしかないなかで、悩ましい人もいることだろう。
駆動用バッテリー容量20kWh、航続距離はWLTCで180km
それにしても、サクラに初めて乗った際は、ちょっとした衝撃で、欧州プレミアムブランドが相次いで投入しているBEVの高級車やスポーツモデルなどと比べても、ICEに対しての異次元感は遥かに大きかった。
大半の軽自動車が採用する0.66L 3気筒エンジン+CVTでは絶対に得られない発進域からのきわめてスムースな動き出し、上質感を備えた力強い加速性能、登坂時のゆとり、速度域を問わずのパワーユニットの静かさといったEVならではの特性。それに加えて、なによりも軽自動車では考えられなかった低重心とそれによる高い安定性、落ち着いた乗り心地は、軽自動車に抱く不満、不安を打ち砕くものだったからだ。
ただし、サクラの場合、駆動用リチウムイオンバッテリーの容量は20kWhに過ぎず、BEVでつねづね話題、課題、問題として上がることの多い一充電走行距離は、WLTCモードで180kmしかない。それでも、主要販売地域として考えられている地方部での軽乗用者の使われ方としては、基本として充電環境を備えた住居を使用拠点とするなら、十分に対応可能なユーザーは少なくない、というのは、サクラの売れ行きからもして外れてはいないのだろう。
でも、クルマでちょっと出かけようとすれば、それなりの距離を移動することになったりするものだ。一家で複数台所有という環境なら、それを借りる手もあるとしても、個人の主要移動の手段として、イザという時のサクラの使い勝手はどうなのか。
そこで、例によって長距離ドライブに出かけてみることにした。さすがに、いつものような1000km越えといった距離は、サクラのコンセプトからしても、ただの意地悪に過ぎなくなってしまうので、比較的近場に1泊で出かける、といった想定で。
都内から伊香保温泉まで1泊2日の試乗ドライブ
宿泊地は観光ドライブを模して、群馬県の伊香保温泉とした。都内からだとルートにもよるが、片道がせいぜい150km以内の距離である。日常の移動の足としての走行の再評価も考えて、高速道路での移動は控えめとしたが、500km弱の試乗がかなうことになった。
この試乗を通しても、走りの性能、快適性に関わる評価では、当初の印象を裏切ることがなかったばかりか、なにより、1日長時間にわたり走らせていても、疲れが少ないことに驚かされた。短距離での使用を主とした本来のコンセプトから思えば、より一層その思いを強くすることになるのだった。
もちろん、航続距離が短いことから、満充電から走り出したとしても、何時間にもわたる連続運転ということにはならず、高速道路なら長くても1時間半、一般道での移動ならば平均車速が低い場合でも通常3時間程度で充電スポットに立ち寄る必要が生じてくる。
充電スポットが移動ルート上で見つかるとは限らないので、充電のための、いわば寄り道となって、移動のための所要時間が増えてしまうことを考慮しておく必要もある。
今回は幸いにも、立ち寄った充電スポットで故障中(意外と珍しくない)には遭遇せず、また先に充電車両がいて待たされることもなかったのでスムースだった。さらには、サクラはバッテリー冷却に水冷式を採用しているため、ワインディングを走行してきた直後の充電などでも、充電効率が極端に落ちるようなことなく、だいたい想定していただけの充電がなされるのも安心材料となっていた。
ラクにドライビングできることでは軽随一
サクラに限らず、BEVのほとんどがバッテリーを床下に収めたパッケージングを採用するので、低重心になるのは当然だが、トレッドに対して元来の重心高が高い軽にとってのその効果は、予想を遥かに上回っていた。疲れが少ない要因は、この安定感と乗り心地とともに、発進からドライバーのアクセル操作に沿ったスムースな動き出しと加速を得られること、80km/h領域までは必要な際にストレスのない加速性能を備えること、その際の音や振動が極めて小さいこと、さらにプロパイロット使用時の制御が、乗員にとって違和感の少ないものになっていることなどだ。
ドライブモードとe-Pedalの組み合わせの選択で、アクセルオフの際の減速度合いもドライバーの好みや走行環境に合わせられるが、私の場合は、e-Pedalはオフで、もっとも減速力が低く、アクセルを戻した際のブレーキランプの点灯がほぼないEcoモードが、ワインディング走行時を除いた大半での選択だった。ちなみに、Ecoでも日常での加速で不足を感じさせることはまずない。
一方で、ワインディングなど上り坂でのレスポンスなどを求めたい時には、スポーツモードを選択しておけば、アクセルワークに対して即座にパワーを発するし、アクセルオフでの減速度もしっかりと得られる。
ワインディングでは、そういう走りのクルマではないことを認識したうえで、少しスポーティなドライビングもしてみたが、モーターならではのトルクの力強さで、一般道の速度域において上り坂での加速が意のままであること、そしてハンドリングにおいては、ロールが穏やかでタイヤが地に着いた感覚で曲がれること、つまり、軽にはありがちな、ひっくり返りそうな恐怖感がなく、操舵に対して素直に普通に曲がってくれるなど、ラクにドライビングできることでは軽随一と思えた。
そうした際には、ゆったりと座れる平坦な形状の座面のフロントシートは、さすがにサポート性が心もとなくなる。その代わりに優しく身体を受け止めるクッションやシートバックのおかげで、サクラに長時間座り続けていても、疲れを感じさない一因となっていた。
エアコン オンでも優秀な電費性能
つまり、走りも快適性も軽自動車として抜き出ている。こうなると、わかっていたことではあるが、一充電走行距離の短さが評価が分かれる決定的ポイントだ。今回でいえば、急遽予約したホテルは急速充電器も普通充電器も備えていなかったので、すべて移動途中での充電となってしまったが、想像以上に電費性能に優れていたことが新たな驚きだった。
ざっと走行と充電状況を言えば、都内スタート時のメーター表示ではバッテリー残量81%、走行可能距離116km、平均電費7.0km/kWh。そして、最初の急速充電を行った群馬県の「道の駅おおた」までの走行距離は80.3kmで、バッテリー残量は32%に、走行可能距離54kmとなった。
この時点で平均電費は9.4km/kWhに達しており、Ecoモードでの走行が大半とはいえ、常時エアコン オンで走行していたことを思えば、予想以上の好電費であった。
ここでは25kWの中速充電器による30分の充電で、終了時のバッテリー残量は79%、走行可能距離は127kmと表示されていた。駆動用バッテリー容量が小さいため、充電に立ち寄った際の充電器が、急速ではなく中速だったとしても、それほどガッカリさせられることが少ないのが、メリットといえばメリットかもしれない。
その後、渋川市から急坂の続く伊香保温泉まで向かうと、走行距離は約50kmに過ぎないのに、バッテリー残量は30%に、走行可能距離はわずか39kmにまで減ってしまった。それでも平均電費は8.2km/kWhと表示されていたが、上り坂が続くような負荷の大きな走行領域では、イッキに電費が悪化することも知れた。これでは心もとないので、再び伊香保温泉のコンビニで急速充電。
ここは20kWの中速充電器だが、それでも30分でバッテリー残量78%まで回復できた。ここから先、榛名湖へ向かうワインディングは登り坂続きなので、またしても急激にバッテリー残量は減っていく。
そのまま榛名湖周辺およびワインディングを周遊、往復したが、伊香保温泉に戻るルートはほぼすべて下り坂なので、ここでは回生量を増やすべく、アクセルオフでの減速度が高いスポーツモードを選択して、メリハリある動きと安心感がともに備わる走りを楽しめた。
この結果、気持ちよく走らせた割には、平均電費は悪化せず8.6km/kWhを保っており、翌日、出発時に昨日と同じコンビニの中速充電器で、バッテリー残量は90%まで回復した。走行可能距離は137kmである。
高速巡航ではさすがに電費が悪化
2日目は赤城山に向かい、上毛三山パノラマラインなる、小さなRから大きなRまでコーナーも勾配も変化に富んだワインディングを巡りながら、赤城大沼をひと回りして帰路についた。その間、117kmを走行してバッテリー残量が20%になったところで、20kWの中速充電器で再び充電。ここまでも平均電費は9.0km/kWhを保っていた。
そこからは、多少の寄り道をしながら自宅近くまで戻ってきたら、バッテリー残量15%となった時点で、充電を促す警告灯がメーター画面に大きく表示された。
この際の走行可能距離は22km。通常の軽乗用車であれば、ガソリン残量で2Lくらいだから、相当にドキドキしそうなところだが、BEVに慣れてくると、あと22kmは走れるから大丈夫、といった意識に変わるから不思議だ。もちろん、近くに充電できる環境があるというのが前提ではあるのだけれど。
高速道路で100km/h前後での巡航が増えると、やはり電費は悪化し、追い越し車線での加減速も意図して増やした走りをしてみたため、平均電費は一時6.2km/kWhまで低下していた。このあたりがサクラにとっての下限の電費だろう。この後、日産ディーラーの50kW急速充電器で充電したが、30分でバッテリー残量は77%まで回復。
今回の旅での充電はこれで終えたが、翌日に所要で都内に出かけて戻ってきた際には、走行可能距離は50km以下になっており、充電環境のないマンション住まいの私は、結局また充電に向かうことになるのだった。
中長距離の移動は充電計画を含めて楽しむスタンスで
結局、サクラでの長距離の移動では、充電の繰り返し旅となるのは検証するまでもないことだったが、走らせ方やルート選択次第では電費は相当に優れた数値が得られる。
それでも、中長距離の移動には、時間の使い方やルートに工夫は必要となるが、それはサクラを選ぶユーザーにとっては折り込み済みだろう。それに、充電における高速道路のSAや道の駅など、各駅停車の旅的な楽しみ方も生まれるかもしれない。
現段階で考えるBEVの好ましいあり方が、日本では「軽」だろうと思うことは、1泊のショートトリップでも変わることはなかったが、残る疑問として、とくに軽自動車の場合、1台のライフサイクルが登録車以上に長いなかで、バッテリー性能の維持がどこまでなされるのか、そこは気になるところである。
それもあって、通常はバッテリーへの負荷の少ない普通充電を主としながら、急速充電はたまの遠出の際に行うというのが、サクラの使われ方として相応しいと思うのだった。