使い勝手がさらにアップした3代目「シエンタ」
2022年8月に3代目となったトヨタのコンパクトミニバン「シエンタ」は、5ナンバーサイズのボディを「シカクマル」として、一段とルーミーになった視界、最小回転半径5.0mの小回り性もあり、運転のしやすさを高めた新型だ。
もちろん、両側スライドドアによる乗降性も、先代と変わらない、ノンステップバスの300mmに迫る驚異的に低いステップ地上高330mmを維持するとともに、スライドドア開口部の高さを60mm拡大(全高と室内高は20mmアップ)。一段と快適な乗降性を実現しているのである。そして前後席(1~2列目席)間の距離を80mmも増やし、後席の足元空間をより広々とさせているのだ(そのぶん、3列目席の足元空間は狭まっているが)。
車いす仕様のウェルキャブをラインアップ
そんな新型シエンタには、そうしたパッケージングを生かした「ウェルキャブ」(福祉車両)が用意されている。もっとも、ベース車両は先代では「FUNBASE」と名乗っていた大容量ワゴンと呼べる2列シート仕様だ。
一般的な車いす仕様車の「タイプI」は車高降下機能によって9.5度のなだらかなスロープが実現され、車いすに座ったまま乗り降りが可能。後席セカンドシートあり/なしが選べ、ありの場合は隣に介助する人が乗車できるため、車いすに乗った人も安心というわけだ。
「タイプII」は主に子ども向けの仕様で、1.5列目席まで車いすを乗り入れることができ、車内に乗り入れた車いすと運転席との距離が近いのが特徴。タイプI同様に、介助する人がすぐ隣に乗車することも可能である。
介護のプロ向け「タイプIII」が採用した「ショートスロープ」とは
そして今回のウェルキャブ仕様の大きな目玉となるのが、介護タクシーなど、介護のプロ向けに用意された「タイプIII」(乗車人数は車いす1名を含めて4名)。バックドアを開けると同時に車高が60mm降下し、リヤバンパーに内蔵された、これまでにない世界初となるショートスロープが、複雑なメカを使わないカラクリ機構によって瞬時に自動展開(その展開方法も見事)。なんとボディ後方に出っぱるショートスロープの長さは約170mmでしかなく、車いすを含めたボディ後方の必要スペースも1300mmで済むのである。
たとえば、シエンタのウェルキャブ仕様タイプIIIを停め、介助者を迎えに行っている間に、シエンタの後ろにクルマが後ろに停まったとしても、そのクルマがステアリングを切って出られるスペース(およそ1700mm)を考慮すると、ショートスロープから車いすを転回し、乗せられるスペースが確保しやすいというわけだ。
もっとも、ショートスロープゆえに、介助する側は車いすをウィリーさせてスロープに乗せる必要があり、実際に介助する側としてウィリーさせてみると、素人では慣れが必要だが(力もいる)、そもそもこのタイプIIIは、介助、介護のための訓練を受けた資格のある介護タクシーの運転手など、プロ、法人向け仕様だから、そうした心配はないとされている。
従来のなだらかな角度のスロープだとボディ後方に約2400mmのスペースが必要だったから、その使い勝手の差は絶大。高齢者人口が世界一と言われている日本だから(現時点で人口の29%、2050年には40%突破!?)、こうした使いやすい福祉車両がますます活躍してくれることを期待したい。
ちなみに、今度は実際に車いすに乗って車内に乗せてもらったところ、最初はやや上向きの角度がついた乗車感覚になるのだが、それはリヤ側の車高が60mm下がっているからで、出発時には水平になる。視界も良く、しっかりとしたフラットな乗り心地とガソリン車でも静かな車内環境から、介助される人、介助する人も、爽快な移動、ドライブが楽しめるはずである。
なお、タイプIIIのベース車はシエンタのG 2列シートで、非課税のため、実質、標準車両+9万6000円の価格設定となる。