ポルシェでもホモロゲモデルは大人気
現在にまで続くポルシェ911の歴史のなかでも、とくにファンの心を刺激するモデルといえば、ホモロゲーション・スペシャル、すなわちモータースポーツに参戦するための公認を得るために最低限の公道走行可能な車両を生産する義務を負ったモデルたちだろう。
一般のユーザーもポルシェのモータースポーツ・ヒストリーに名を連ねるレーシングカーを手に入れることができるのだから、いつの時代もホモロゲ・スペシャルを追い求めるファンが多いのも十分に理解できるところである。
発売当時から人気を誇った「911カレラRS 2.7」
数あるポルシェのホモロゲーション・スペシャルのなかでも高い人気を誇るのは、1973年から始まる世界選手権レースに参戦するためのグループ4マシンとして製作された「911カレラRS 2.7」である。
グループ4の車両規定では、連続する12カ月間に500台の生産を義務付けられていたが、そのデビューが伝わるとポルシェのもとへ世界中からオーダーが殺到。最終的には1580台が生産されたとされる。
ちなみにこの911カレラRS 2.7には3タイプの仕様がある。
徹底的な軽量化とサスペンションなどの見直しで、文字通りモータースポーツへの参戦を目指した「レース」仕様のほかに、軽量なシートを採用しアンダーコート、遮音材の省略などでベースとなった911Sから大幅なダイエットを実現した「スポーツ」、そしてパワーウインドウなどほかの911シリーズと同等の装備が備わる「ツーリング」がある。
リヤに搭載されるエンジンは、1972年式の911Sに搭載されていた水平対向6気筒エンジンをボアアップし、排気量を2.7Lに拡大したもの。最高出力は210psにまで向上し、トルクも20%近くアップしている。
オレンジに変更されたボディカラー
今回RMサザビーズのロンドン・オークションに出品された911カレラRS 2.7は、1973年1月に製作されたシャシーナンバー「0388」のツーリング。パリで販売された4台のうちの1台である。
納車後にこの0388はさまざまなオーナーの手に渡るが、1986年には1980年から2004年までポルシェ・クラブ・フランスの会長を務めたフィリップ・オネ氏によって譲り受けられ、氏はこのクルマを伝説のポルシェ・メカニックとも称されるルイ・メズナリーに託し、全面的なオーバーホールを依頼。
同時にボディカラーも現在のガルフオレンジに変更している。メカニカルな部分では、トランスミッションの交換やクランクケースをマグネシウム製とするなど、こちらも作業は徹底しており、0388には再び新しい命が与えられたのだ。
そのオネ氏が2004年に他界したことで、0388は長くイギリスのポルシェ・スペシャリスト、オートファームによって所有、そして2021年には再びメカニカルなパートのレストアが実施され、今回のオークションへと出品されることになった。
予想通りの6000万円弱で落札
参考までにRMサザビーズによる予想落札価格は、32万5000~37万5000ポンド(邦貨換算約5530万円~6380万円)。最終的には34万2500ポンド(邦貨換算約5820万円)での落札となった。
1580台の911カレラRS 2.7のうち、1308台を占めるというツーリング仕様。積極的にオンロードやサーキットイベントに持ち込むには、これ以上に趣味性の強いモデルはそうはないだろう。
現行モデルの911に「T」グレードを追加設定し、GT3にも「ツーリング パッケージ」を用意したポルシェ自身も、それは何よりも良く分かっているところなのである。