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ストリートで壊れるR32「スカイラインGT-R」では意味がない! 関西の老舗チューニングショップの譲れない「こだわり」とは

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TEXT: 増田高志  PHOTO: GT-R Magazine

一番印象に残るのはTO4Sのビッグシングルターボ仕様

 多くのチューナーが登場を心待ちにしていたBNR32。もちろん向井代表もその中の一人だ。デビューと同時にデモカーとして2台を購入。1台をデータ取り用にして、もう1台でそのデータを反映させて走らせる。それぞれに違った役割を持たせて効率的に開発に勤しんだ。

「新開発されたRB26DETTを積んだR32は、ありとあらゆる仕様を試みました。ターボに関してはツインからシングル、さらにHKSのソアラ用キットを加工して仕立てたシーケンシャルツインターボと、どれも独自の個性があって魅力的でした。でも一番心に残っているのはTO4Sのシングルターボ仕様ですね」と向井代表は即答した。それほど思い入れのある仕様だ。

 仕上げたのはR32がデビューした1989年。すぐに谷田部のテストコースに持ち込んで306.5km/hをマークする。R32でイチ早く300km/hオーバーを成し遂げた。しかし向井代表の心を掴んでいるのは数字ではない。ツインターボの小気味いいピックアップとはまったく違う、ビッグシングルならではの力強さだ。チューニングカーらしさが炸裂する、中間域から高回転に向かって湧き上がるトルク感がたまらない。瞬時に少しの淀みもなくレッドゾーンまで駆け抜けていく。過激さを絶妙に整えたことで体感できる気持ちよさが圧巻なのだ。

「TD08でもビッグシングルを試しましたが、TO4Sには敵いませんでした。上では申し分ないのですが中間がモノ足りなくて、胸のすくようなフィーリングで高回転までは持っていかれなかった。今ならセッティングツールも充実しているから対応できるかもしれませんけどね」と向井代表は当時の開発秘話を教えてくれた。

谷田部で記録を出してから自走で帰ってこれて合格だ

 TO4S以外の主な仕様は、ステンレスのエキマニにHKSのウエストゲート。エキゾーストはオリジナルで、キャタライザーから後ろはHKS製だ。カムはIN/EX共にHKSの264度。ピストンは1mmオーバーサイズの87φで排気量は2.7L弱である。ヘッドは面研で修正してポートを拡大。当時はまだメタルガスケットが登場していなかったのでノンアス製だ。

 インジェクターは620㏄でデリバリーパイプを加工して燃圧を上げている。燃料ポンプはボッシュの2基掛け。燃料制御はHKSのFコンとGCCで、点火系はリターダーを活用。インタークーラーやオイルクーラー、それに機械式のVVCもHKS製だ。足まわりはビルシュタインを使い、エナペタルで仕様変更を行った。ホイールとタイヤはヨコハマのAVSを装着。

 ブーストを1.8kg/cm2掛けて620psを発揮する。30年経った現在から見ればどうということはないパワーではあるが、計測器は空燃比計と排気温度計しかなく、シャシーダイナモはあるものの、制御は今より自由度が劣った当時の悪条件を鑑みればズバ抜けたポテンシャルだ。間違いなくデータの積み重ねで成し遂げた力作と言える。

「ウチはパワーも速度も結果であって、重視しているのはストリートでの乗り味なんです。このR32は当時、最も刺激的な加速感を得られるように開発しました。そのためのタービンチョイスですし、それを生かすためのセッティングです。数値はこのクルマの魅力の目安であってすべてではありません。扱いやすさや耐久性など数値には表れない性能にも存分に気を配っていますからね」

 だから谷田部のテストコースまで600kmの道のりを自走し、体力測定後に何事もなかったように奈良へ帰って来る。測定後に壊れたら、いくら良い数値が出たとしてもストリートでは生かせない。

「苦労したのは燃調と点火時期のバランスですね。中間と高回転では点火時期が大きく異なる味付けです。高回転で軽やかに伸びるようにガスは薄めで、ノッキングが出ないギリギリまで点火時期を進めて攻めました。これが上手くいったんです」

 向井流儀によるピストンクリアランスは0.04mmと極端に狭い。広く取ると一発は速いが、すぐにタレてブローバイが出始める。それを嫌って狭めているという。そのぶんピストンのスカート部を短くして抵抗を減らしているのもポイントだ。またコーナーよりも高速重視なのでLSDはプレートの枚数を減らして少しでもロスがなくなるように組み付けた。とにかく細部に渡って創意工夫を注ぎ込んで、上質な走りを追求している。

こだわりのピストン加工

「中間域の図太さが乗りやすさを際立たせる、柔軟性に富んだ純粋なストリート向けのビッグシングルターボを、どこよりも早く実現した仕様です。大袈裟ではなく四六時中RB26DETTのことを考えて、アイディアを絞り出して完成させましたから、思い入れもひとしおです。今乗ったらどう感じるだろう。考えただけでワクワクします」

 向井代表にそう思わせるほどの存在感がこのクルマの真骨頂だ。

(この記事は2019年6月1日発売のGT-R Magazine 147号に掲載した記事を元に再編集しています)

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