ルーツは武骨な「デリカスターワゴン4WD」
三菱「デリカスペースギア」の源流は、1982年11月に登場した「デリカスターワゴン」の4WDモデルだ。小型車クラスの1BOX車としては日本初で、「ジープ」、「フォルテ4WD」、「パジェロ」と三菱が手がけてきた4WD技術を、キャブオーバー型だった1BOXのデリカと合体。最低地上高を200mmとし、本格オフロードタイヤを装着するなどしてRVの新境地を開いた。
当時、角張った1BOXボディをかさ上げし、ガッツリとした足まわりやアンダープロテクター類を装着した出で立ちは、見るからに機動性の高さをアピールしながら存在感を放っていたものだ。かつて、その説得力のあるルックスで、皇居周辺の警備にあたる警察車両に使われていたこともあった。このデリカスターワゴンは1986年には2世代目へと進化している。
パジェロ譲りのビルトインフレーム構造を採用
そしてデリカスターワゴンの世界観をさらに進化させて、1994年5月に登場したのがデリカスペースギアだった。
発売当時カタログの最初の見開きに「スーパープレジャーRV」と銘打ってあるとおり、スペースギアと車名も新たに、先代のデリカスターワゴンの進化形として登場した。
それまでのキャブオーバー型から、運転席より前にエンジンを搭載するフロントエンジンレイアウトに一新している。カタログには「’94年から実施の自動車安全基準(50km/h前面衝突時の乗員障害値)を、クラスで初めてクリア」とあり、エンジンなどのメカをフロントのコンパートメントに収め、ボディ前端からフロントシート(ヒップポイント)までは最大で2065mmの余裕、ステアリングホイールの傾斜角をクラス最小レベルの30度とした、セダンに近い自然な運転姿勢も実現していた。
フレームとモノコックボディを一体化したビルトインフレーム構造は2代目パジェロ譲り。サスペンションはフロントが専用設計のダブルウイッシュボーン、リヤには5リンク式コイルスプリングである。ショックアブソーバーの減衰力を最適に制御する仕組みの「ファジィ電子制御サスペンション(ECS)」も採用。制御にはソフト~ミディアム~ハードの減衰制御を行う通常モードのほかに、ミディアム~ハード間の制御のSPORTモードを用意し、ボタンで切り替え可能となっていた。
4WD命の三菱らしい本格的すぎるオフロード性能
また4WDには「スーパーセレクト4WD」を採用。これはレバー操作で2H/4H/4HLc/4LLcを切り替えるもので、フリーホイールハブとシンクロ機構の採用で走行中でも2WDと4WDの切り替えが可能というもの。カタログに、「1:トランスミッション、2:H/L切換ユニット、3:2WD/4WD切換&センターデフロックユニット、4:VCU(ビスカスカップリング)&センターデフ、5:フリーホイールデフ機構、6:フロントデフ、7:リヤデフ」と、ドライブトレーンの構成を説明したマニアックな図版が載っているのは、4WDにこだわる三菱車らしいところだ。
最低地上高は195~190mmの設定で、アプローチアングル:28.0度、ランプブレークオーバーアングル:23.0度、ディパーチャーアングル:25.0度(スペックは4WD SUPER EXEED)と、オフロードでの走破性についてのスペックが記されているのもこのクルマらしいところ。クラス初の4チャンネルABSも装備していた。
アレンジ自在な室内空間の使い勝手も最強だった
一方でミニバンとしての資質、充実した機能性の高さも、車名どおりスペースギアの売りだった。とくに室内空間は、前後とも床面は高くステップを1段介して乗り込む方式だったが、その代わり床面が1~3列にわたってフラットであるのが魅力だった。シートアレンジは2列目の180度回転シートおよび対座モードや、「フィールドでの拠点スペースとして最適」と表記されたユニークな2列目90度横向き回転、そのほか3列フルフラット、2列目チップアップなど、多彩な使い勝手を可能にしていた。
シリーズにはなんと4WDのロングボディも用意され、標準ボディより200mm長い3000mmのホイールベースをもち、2WDモデルで10名乗車のグレードも設定された(その他のモデルの乗車定員は7名または8名)。
またクリスタルライトルーフ、ツインサンルーフなど、この時代のミニバンらしい「マストアイテム」も用意された。クリスタルライトルーフは、後席用に4分割のガラスサンルーフを備えるもので、電動サンシェード付き。さらに15W白色蛍光灯の直接照明、オレンジ色の6W蛍光灯2本の間接照明が装備のひとつだったのも、今では懐かしい。
搭載エンジンは、当初は3LのV6ガソリンエンジン、2.4Lの4気筒ガソリンエンジンのほか2.8Lと2.5Lの4気筒ディーゼルターボと、この時代らしい余裕の性能を発揮するユニットがラインアップされていた。いずれもノーズ部分にエンジンを収める車両レイアウトにより実現したものでもあった。
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2007年までのモデルレンジを全うし、後継車の「デリカD:5」にその任をバトンタッチしたのはご存知のとおり。どこかの湖のほとりに佇むカタログ写真を眺めるところからアウトドア気分を味わわせてくれた、RVを代表する1台だった。