驚愕テクニックの数々にスーパーカー少年たちは熱狂した
スーパーカーブームの火付け役となった池沢早人師(いけざわ さとし)先生による漫画『サーキットの狼』は、主人公の風吹裕矢(ふぶき ゆうや)が愛車のロータス「ヨーロッパ」を駆り、公道でのバトルを繰り広げながらプロのレーサーとして成長し、自動車レースの最高峰であるF1を目指すという熱きストーリーだ。
それまでのクルマ漫画と一線を画したリアルな描写で人気に
1975年から週刊少年ジャンプでの連載がスタートした漫画『サーキットの狼』には実在するスーパーカーが多数登場し、まだ運転免許を持っていない子どもたちがそのストーリーに一喜一憂するという面白い現象が起きた。主人公たちが自慢の愛車で競争する道路や、集まる喫茶店が実在するものだったこともあり、それまでの日本のクルマ漫画とは異なるリアルさが人気の要因となったのだ。
池沢先生によると、F2カテゴリーのレーシングカーが走るJAFグランプリを鈴鹿まで観に行き、日本人ドライバーのなかでF1グランプリにもっとも近い男と呼ばれていた風戸 裕(かざと ひろし)選手が亡くなられたレースも現場で観ていたのだという。
「ずっとレースに夢中になっていて、いつの日にかレースを題材とした漫画を描きたいと思っていました。トヨタ2000GTを所有していたときに連載していた『あらし!三匹』の連載終盤に、世界の名車によるカーチェイスみたいなことを描いたことがありました。本当は、いますぐにでもレースの漫画を描きたかったけど、免許を持っていない子どもたちがメインの読者である週刊少年ジャンプにレースの漫画はありえない……という意見が編集者から出ていたので、2年間ぐらいは描きたくても描けなかった」
とは、池沢先生から直に伺ったエピソードだ。
実車の「ヨーロッパ」を所有する『サーキットの狼』愛好家に直撃
そのようにリアルさが人気の要因となったわけだが、公道グランプリのラストで、ゴール直前に横転し、逆さまになってしまった風吹のヨーロッパが、スローダウンした沖田(ハンドルを握ったまま絶命)のディーノを抜いて1位でゴールしたり、極道連に重傷を負わされた風吹の代わりにミキが助手席からシフトチェンジしたりと、リアルとフィクションが混在しているようなシーンも多々あった。
子どものころは、ただ単に「おぉ~、スゲェ~」と思っていたが、大人になるにつれ、漫画『サーキットの狼』は、どこまでがリアルで、どこからがフィクションなんだろう? と思うようになり、いつの日にかそれを解明したいと思っていた。
池沢先生に直接伺ってしまうことも考えたが、適任がいたので、彼に積年の疑問を解いてもらうことにした。ロータス・ヨーロッパを2台乗り継ぎ、池沢先生から結婚のお祝いをいただくほどのWさん(42歳)が取材に応じてくれることになったのだ。
まずWさんの車歴を紹介しておこう。19歳のときにランチア「デルタHFインテグラーレ16Vエヴォルツィオーネ」を購入。やがて、苦労しつつもデルタを維持できているのだから、ヨーロッパを買っても全然平気なんじゃないか? と思うように。足グルマとして「マイティボーイ」をゲットしつつ、24歳のときにデルタからヨーロッパTCへ乗りかえたという、華麗なる車歴を誇っている。
そして、ずっと乗り続けようと思ってヨーロッパTCの各部をリセットしたものの、30歳のときに細部に至るまで入念に仕上げられた1973年式のヨーロッパSPが出てきたので、この好機を逃したら次はないと考え、より高年式のヨーロッパへと乗りかえた。以前愛用していたTCも現在愛用しているSPもボディカラーが白なので、Wさんの母親は息子が今でもまったく同じロータス・ヨーロッパに乗り続けていると思っているそうだ。