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R32「スカイラインGT-R」の800馬力オーバーで見えたこととは? 「アートテック花塚」が語る「ターボ車だからこそハードに仕立てなければ意味がない」

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TEXT: 増田高志  PHOTO: GT-R Magazine

ターボチューンだからこそカムやヘッドはハード志向

 平成6年に再びR32を入手。RBに対するチューニングのノウハウも制御の知識も深まっていたころで、その実力を余すことなく注ぎ込んだ。

 まずはエンジンノーマルでターボをGT2530ツインにして、ブースト1.3kg/cm2で550psをマーク。Hパターンのクロスミッションでゼロヨンは10秒9。その後、カムをIN256度/EX264度に換えてパワーFCで制御し、同じブースト圧ながら600psをマークした。ゼロヨンも10秒79にタイムアップしたのである。

 そろそろエンジン内部も強化しないと持たないレベルになってきたので、ボアの広い東名の鍛造ピストンを使い、クランクはノーマルのままで2.7Lに仕上げる。同時にターボはGT3037Sツインに換えてカムもIN/EX共に280度に変更。制御はVプロのエアフロレスで、ブーストを2.1kg/cm2まで掛けて850psを絞り出す。この仕様で初の9秒台となる9秒8をマークし、すぐに9秒4までタイムを詰める。

 このクルマはトラストの4層インタークーラーとサージタンクを使ってインテークまわりを100φのパイピングでレイアウト。ビッグサイズの6連スロットルを組み合わせる。オイルポンプは東名パワードの強化品で、オイルパンはトラストの大容量タイプ。インジェクターは1000ccでボッシュの燃料ポンプを3機使う。

 クランクプーリーはATIで、エキゾーストはチタンのオリジナル。クラッチはHKSトリプルを装着し、足はアペックスのN1ダンパーベースのオリジナル減衰だ。ホイールはボルクレーシングのTE37で17インチの9.5J。タイヤはニットーNT555の275/40を組み合わせる。

「GT-Rが得意だと言い切れる実績を作ったクルマです。RH9に入会できたのもこのクルマのお陰かな」

 散々イジりまくったL型で身に付けた自分なりのチューニング理論を持つ花塚代表は、それを生かすことで比較的順調に9秒台に行き着いた。

 ターボだからといってオーソドックスなカムやヘッドでは期待に応えてくれない。むしろNAよりもハードに設定しないと狙ったパワーは生み出せない。とくにバルブスプリングは確実にNAよりも硬くしなければならない。柔らかいとブースト圧でバルブが開いてしまうからだ。

 バルブスプリングとカムの組み合わせも見逃せないポイントで、派手なカムほど力強いバルブスプリングを使わないとカム山を上手くトレースできない。抵抗になるからと柔らか目なバルブスプリングにすれば、回らないエンジンになってしまう。すべて花塚代表がL型で実証済みだ。

800psオーバーに仕立てたことで見えたトラブルもある

 このR32はRB26DETTの弱点も教えてくれた。それが8ウエイトの純正クランクだ。パワーがそれほど出ていなければ気にはならないが、800psオーバーではエンジンを回せば回すほどネックになってくる。

「ドラッグレース後の点検でクランクプーリーの真下に漏れたオイルを見つけたんです。いろいろと調べていくと、どうやら高回転でクランクがブレて、その先にあるオイルポンプのインナーギヤがアウターケースと干渉してクラックが入ってしまったようです。気付くのが遅かったら間違いなくエンジンはブローでした」

 そのときエンジンを降ろしてオイルポンプまわりを修理し、クランクだけHKSのフルカウンターに交換した。つまりパワーに関係するパーツにはいっさい手を付けていない。

クランクシャフト

「偶然にもそんな好条件でクランクの効果が体感できたんです。すると大袈裟ではなく100ps近くパワーが上がった感覚を味わいました。低速から圧倒的に元気になったのです。今までどれほど抵抗だったのか、実感しました。大パワーを8000rpmで受け止めるには8カウンターでは無理があるということです」

 ガンメタからブルーにボディカラーを変えて、さらにタイムアップを目指そうとしていた矢先に古くからの常連に「どうしても譲ってほしい」と懇願された。RB26DETTのあらゆることを学んだ思い出深い1台ではあるが潔く手放した。平成12年のことだ。

「手放して20年近く経ちますが今も大事に乗ってくれています。そのオーナーはゼロヨンタイムを9秒2まで縮めました。譲ってよかったと思います」と花塚代表。入魂のRが元気だとやはり気分も爽快のようだ。

(この記事は2019年10月1日発売のGT-R Magazine 149号に掲載した記事を元に再編集しています)

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