昨年夏にデビューしたばかりなのに? 限定ブガッティがオークションに
昨2021年8月に開催されたモントレー・カーウィークのメインイベントである「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」および、その前日の「ザ・クエイル・モータスポーツギャザリング」で世界初公開されたばかりのブガッティ「シロン・シュペールスポール(Super Sports)300+」が、早くもRMサザビーズ「LONDON」オークションに出品された。
最高速度は300マイル! シロン・シュペールスポール300+とは?
ブガッティ シロン・シュペールスポール300+は、2019年9月にル・マン優勝経験もあるブガッティS.A.S所属のテストドライバー、アンディ・ウォーレスの操縦により、ドイツにあるフォルクスワーゲン・グループ所有のエハラ・レシエン・テストコースにて、最高速度304.773mph(490.484km/h)を叩き出した特別チューンのシロンを生産化したものとされる。
その心臓部は、8L W型16気筒に4基のターボチャージャーを組み合わせ、現代ブガッティを世界の頂点に至らしめた伝説的なエンジン。スタンダードのシロンでも1500psを発生するが、さらにシュペールスポール300+では徹底的な改良によって、1600psを発生させることができるという。
ブガッティのエンジニアリングチームは、大型のクワッドタービンを開発・搭載するとともに、オイルポンプやシリンダーヘッド、ピストンにバルブトレーンを強化した。トランスミッションやクラッチなどの駆動系も、このパワートレーンのもたらす強大なパワーに適合するように改良が施されている。
そして、このクルマのレゾンデートルである超速のトップスピードにおける信頼感を高めるために、ブガッティはシロン・シュペールスポールのシャシーおよびサスペンションのセットに徹底的にこだわったとのこと。
ステアリングにセットアップの変更を施したほか、よりソリッドなものとされたスプリングなどによって構成される電子制御シャシーと統合管理されることによって、車名とされた最高速度300mph(約480km/h)+でのスタビリティも確保したという。
さらにテールエンドを250mm延長し、フロントの空力パーツもリニューアルすることで、エアロダイナミクス的にニュートラルなバランスを保っているとのことだ。
税別のベース価格は320万ユーロ(約4億3100万円)に達するというシロン・シュペールスポールながら、その製造枠は発表の段階ですべて予約済み。キャンセル待ちも発生したという逸話の持ち主が、早くも国際オークションに出品されるというのは、世界中のスーパーカーファンを驚かせるに相応しいニュースなのだ。
ブラックにオレンジのデフォルトカラー
2019年のスピード記録達成により「レガシー」を築いたブガッティは、ほどなくシロン・シュペールスポーツ300+として、世界限定30台で生産すると発表。2年間にわたるテスト期間を経て、正式発表の9カ月前、2021年末にオーダー受付を開始したという。
今回RMサザビーズ「LONDON」オークションに出品されたシロン・シュペールスポール300+は、30台が限定生産されたうちの1台。「グランツーリスモ・コレクション」の名のもと、フェラーリのスペチアーレ各モデルや1980年代のグループBラリーマシンなどを保有し、同じオークションには2台のブガッティ「EB110」も出品したプライベートコレクターから依頼を受けて、オークションに登場することになったという。
この個体は、ロンドンを拠点とするブガッティの正規代理店、H.R.オーウェンを介してオーダーされ、新車時からグランツーリスモ・コレクションに収められたとのこと。
モルツハイムのアトリエで仕上げられた30台のシロン・シュペールスポール300+は、ブラック・カーボンにジェット・オレンジのレーシング・ストライプが施され、マグネシウム製の超軽量ホイールが組み合わされるのがデフォルト。今回の出品車も、そのカラーリバリーとされている。
また、インテリアはベルーガ・ブラックのレザーにアルカンターラ、ブラック・カーボンで構成され、ジェット・オレンジのハイライトが引き立つスタイルに仕上げられている。
特別中の特別なブガッティは、約7億円で落札!
ブガッティのモールスハイム本社発行のドキュメントによると、当初の注文日は2019年12月で、グランツーリスモ・コレクションへの引き渡しは2022年1月とのこと。その後はほとんど走行することなく、オークション用の公式WEBカタログが作成された時のオドメーターは、わずか1416マイル(約2279km)に過ぎなかった。
現時点で入手可能な、おそらく世界で1台のブガッティ シロン・シュペールスポール300+に、RMサザビーズ欧州本社とグランツーリスモ・コレクションは400万~450万ポンドのエスティメート(推定落札価格)を設定。
そして2022年11月9日に行われた競売では、419万5625ポンド、日本円換算で約6億9950万円という驚くべき価格で落札された。すなわちユーロとポンドの違い、為替レートの時期による差異を考慮しても、新車時のプライスを大幅に上回る大商いとなったのだ。
* * *
ブガッティ・シロンは全車両が伝説的ともいえるが、とくにこのようなスペシャルモデルはごく少数の限定生産であることから、たとえブガッティの既存顧客であったとしても、新車として入手するチャンスを逃してしまう事例もあり得るだろう。高額の追加料金を支払ってでも、まだ新車同様であれば入手したいと考える愛好家は、決して少なくはないと思われる。
今回の落札価格には、特別中の特別なクルマを求める超富裕層の志向性が、うっすらと透けて見えるかに感じられたのである。