広大な農業地帯を走って西へ
さて、セコイア&キングスキャニオン国立公園から降りて、フレズノを過ぎるとセントラルバレーが広がる。燦燦と照りつける陽射しと、シエラネバダ山脈の雪解け水が育む広大な農業地帯だ。
チェリー、リンゴ、ピスタチオ、いちご、オレンジ、オリーブ、アーモンド、洋梨などの果樹園が次々と現れ、ハイウェイ沿いにはかわいいフルーツスタンドがぽつんぽつんと店を出している。こういうショップで買い物をするのも旅の楽しみだ。ジョン・スタインベックの小説『怒りの葡萄』は、夢のカリフォルニアでフルーツをつむ貧しい労働者たちの物語だった。
翌日会うベン(2008年の放浪を手伝ってくれたフィリピン系アメリカ人)は、最近、中国人のガールフレンドと同居を始めたという。ひと晩泊めてもらうことになっているので、お土産にリンゴのバスケットをひとつ購入した。
5月18日 ギルロイの激安モーテルに宿泊
久しぶりに人に会うので、モーテルに泊まってリフレッシュすることにした。ひとりでLAを出てから、まる10日間、車中泊を続けてきたため、髪はボサボサ髭はボウボウというありさまだ。じっくりとシャワーに入り、ついでに皿や鍋もお湯できれいに洗おうという作戦だ。
途中のスターバックスでオンライン予約したのは、ギルロイのとあるモーテル。一応、ポリシーとして地域で1軒だけ激安のところには泊まらないと決めているが、今回は懐具合が寂しかったため、つい禁を冒してしまった。なにしろ、ほかが120~150ドルなのに対して68ドルである。ぐらりとする気持ちも分かっていただけるだろう。
アメリカの移民労働者たちの現実
のっけからヤバいと思ったのは、フロントがコンビニのレジだったこと。こんなことは初めてだ。そのレジには中南米からの移民と思われる小柄な労働者が、日雇い仕事でもらった小額紙幣を右手に握りしめて長い列を作っている。左手に持っているのは、コーラの大瓶や菓子パンだ。その列に加わると、じわっと冷や汗が背筋を伝った。
モーテルは24時間営業のコンビニの2階。隣の部屋は黒人のカップルだった。外はクルマのオーディオや言い争いの声が夜通し響いている。2階の部屋から自分のクルマを見下ろすと、その前にうずくまっている人影が見える。気になって降りて行きたいがその気にもなれず、無事を祈りながらシャワーを2回浴びて早寝をした。
翌朝は、6時前から始まった近くの工事現場の騒音で目が覚めた。きっとコンビニに並んでいた労働者が働いているのだろう。彼らこそが21世紀版の『怒りの葡萄』なのかもしれない。トランプの移民政策には賛成できないが、こうした現実を目の当たりにすると支持者たちの言い分も分からないではない。
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