マツダのクルマ造りを応援するからこそ、今回だけは苦言
まず、今回の試乗記は、厳しめの評価になることを最初にお伝えしておきたい。
個人的には、マツダという世界レベルでみれば小さな自動車メーカーに対して、そのユニークな視点やクルマ造りをとても好ましく思っているし、興味深いし、心情としては強く応援もしている。しかし、それと試乗による車両評価は別。とくにマツダファンの方々には、この点ご理解たまわればと思う次第。
縦置きエンジン×後輪駆動AWDで全面新設計という野心作
さて、この先、ここから続々と新型車が生まれてくる予定の、いわばマツダの社運をかけたラージプラットフォーム群の第1弾として日本に導入されたCX-60は、この時代の新型車としてとてもユニークだ。
カテゴリーとしては、かつてのセダンに代わって現代の乗用車のデフォルトともいえるSUVであることは規定路線だが、しかし、プラットフォームが、縦置きエンジンによる後輪駆動を基本とする点で、ドイツやイギリスのプレミアムブランドを別とすれば、コストやスペース性の点からも、意外も意外だった。パワートレーンからサスペンションまでも、まさに全面新設計という贅沢さなのだ。
トヨタはクラウンですらも、FRプラットフォームを捨てて、既存の横置きエンジンベースのプラットフォームを採用してきたほどで、それはトヨタにとってはチャレンジでもあるが、同じチャレンジでも前向きなのは間違いなくマツダのほうである。
あえて大排気量の直6ディーゼルを採用した新発想
当然としてデビュー前から期待は高まっていたが、一方で不安も拭いきれなかった。蓋を開けてみれば、そのプラットフォームしかり、そして世界の潮流に完全に逆らうような、3.3Lという大排気量の直6エンジンの採用。さらに、これまた難解な、トー変化もキャンバー変化も嫌った「動かさないため」のマルチリンク式リヤサスペンションを開発してきた。かように、すべてが新しくて、かつユニークの塊のようなあり方なのだ。
もちろん、そこには、この先のさらなる電動化技術の採用を見据えた設計がなされているのは当然だが、我々にとっては、まずは市場投入された製品がどうかで、もっとも重要な「素性」を見極めさせていただくしかない。
日本国内向けに設定されているのは、3.3L直6ディーゼルエンジン、同48Vマイルドハイブリッド、2.5L直4ガソリン、同PHEVの4種。もちろんいずれもSKYACTIVの名が冠されている。受注は全てのエンジンモデルでなされているが、2022年11月末時点でも、生産がなされているのはe-SKYACTIV Dの3.3L 48Vマイルドハイブリッドのみであり、用意された試乗車も、内外装の意匠の違いを与えたグレード違いは用意されていたものの、パワートレーンはその1種であった。
もうひとつ最初に驚かされたのは車両価格だ。今回、長距離試乗した「XD-HYBRID」の「プレミアムモダン」は547万2500円で、もっとも高い3.3L直6 PHEVのプレミアムモダン及びプレミアムスポーツは626万4500円。マツダにとってはかつてない高価格帯ではあるが、一方で2.5L直4エンジン2WDモデルは299万2000円から用意されている。安全装備を含めて剥ぎ取り感がない内容でいて、この車格で300万円を切るというのだから、ぜひこれにも乗ってみたいと思わされた。
乗り心地:ピッチングは抑えたが突き上げ感が続く
すでに、他でもいろいろ試乗記は出ていると思うので、細かい技術説明は省かせていただくとして、2022年9月上旬に開催された試乗会での悪い意味での衝撃が大き過ぎて、これはしっかり乗ってからでないと評価できないと考えていたなかで、ようやく東京から全行程で約1000km弱の試乗ができた。それも都内から福島県の裏磐梯を抜け、山形県から宮城県にまたがる蔵王といった道も変化に富むルートで。
この試乗、高速道路での移動は300kmに満たない。つまり全行程の3割程度に留めて、その他は、ワインディングも含め、一般道、郊外道でのドライバビリティ、車両挙動、乗り心地を長時間にわたるドライブで見極めるようにしてみた。
試乗会では、街中の速度で即座に知れてしまう突き上げ感をともなう乗り心地について多くの人から指摘されていた。これは、試乗会場から出てすぐに縦方向の、いわゆるバウンス感の揺れに現れ「これは……」と思わされたのだが、マツダはピッチングを抑えてバウンス方向に動く新たなジオメトリーのサスペンションだと説明する。
なるほど、動きはその通りだ。でも、どうあれ乗り心地は端的に言って良くはない。これは長距離試乗して、とくに一般道をドライブしている間は、よほどフラットな路面でもない限り、つねに付きまとうことになった。ピッチングによる姿勢の前後移動は少なくても、上下に、それも強く揺すられ、とくにリヤ側は入力感そのものが強い。揺れているストローク量自体は大きくないので視点が上下に振れるような感覚は抑えられているが、縦方向に揺れが続くことによるお尻、腰、背中への負担は決して小さくない。
まして、マツダの「いつもながらの」と言わせていただくが、革シートの表皮に突っ張り感があって、かつ弾性の高いゴムの上に座っているかのような感のあるシートクッションが、お尻の体圧の集中する部位に負荷をかけ続け、この揺れをカバーしてくれないので、1日長い時間乗車していると、疲れが大きいと感じることになった。
直進安定性:横方向の揺れは無いもののN感が曖昧
高速道路ではフラット感こそ少し増すが、今度は気になるのは直進安定性の悪さだ。そこもマツダは直安に優れると説明するのだが、たしかに「CX-5」などが採用する横剛性に課題を感じさせたリヤマルチリンクサスとは違い、リヤサスが横方向に悪さをしている動きは無い。しかし、ピシッと真っ直ぐに走る感覚には乏しい。どうにも曖昧な直安感で実際に進路修正を強いるのだが、そこではニュートラル域での座り感も気になってくる。神経質さを嫌ったセッティングかもしれないが、後輪駆動ベース車に期待されるであろう操舵の正確性や精緻性は備えていないのだった。
決してスポーティなハンドリングを期待しているのではない。制御感ではなく座り感をもって、微小舵角でのスムーズな舵の立ち上がりが欲しいだけなのだが、期待は外れた。
そのハンドリングに関しては後述するとして、乗り心地に関して言えば、高速域では揺れそのものは少し収まるが、路面からの入力感が大きいことには変わりない。横方向に揺れないというのは、大きく揺れない代わりに、逆に凹凸に応じて足がスムーズに動いていないかのような細かな左右の揺れが生じる。
今後のサスペンションのチューニング如何で、上下動のあり方、左右向の揺れおよびロールのあり方など、変化や改善はあるとしても、このサスペンション自体の素性、考え方には、結局のところ、まだ疑問を拭えないままで、今に至っている。