使いこなせるパワー設定でGT-Rがより好きになる
「セッティング能力の高さを評価されて、口コミでお客さんが増えていきました。エンジンや足まわりなど、オーダー以上の仕上がりを心掛けていたので、セッティング機材はケチらなかったですね」
1988年に4輪アライメントテスターを日本で3番目に導入。1992年には実走行に近い負荷がかけられてシミュレーションできるシャシーダイナモを設置した。同じ年に点火時期や空燃比などが確認できるエンジンアナライザーも購入。とにかく設備投資には躊躇しなかった。
「そのぶんお金がかかったのでデモカーまでは手が回りませんでした。やっと導入できたのは1993年。忘れもしないR32です。うれしかったなぁ。これでいろいろ試せると、さらにファイトが沸きました」
当時はサーキット派が多かったので、このクルマはそんなユーザーを満足させるために活用した。
純正と同じサイズのワイセコの鍛造ピストンとH断面コンロッドを組み合わせて、カムはIN/EX共に264度でリフト量は11mm。ヘッドまわりはフルに手を入れた。ターボはサーキットを考慮して大き過ぎないN1用を選び、コンプレッサー側の入口をサイズアップして使っていた。インジェクターは700ccで、燃料ポンプはボッシュの大容量タイプに変更。エアフロはノーマルで純正コンピュータの書き換えで対応した。インタークーラーはARC製でパイピングはオリジナルだ。
エキゾーストもすべてオリジナルで製作した。とくにマフラーは素材にもこだわる。一般的なステンレス製だが通常の厚みは1.5~1.6mmながら、内永会長は1.2mmで仕上げている。軽量化のために薄くしたのだ。しかも内部構造を工夫して普段使いではこもらずに静かな音量をキープしつつ、高回転では刺激的なサウンドを奏でる特性を生み出した。サイレンサー内部の排ガスの反射音をウールでうまく調整したのだ。
パワーだけでなく足やブレーキも抜かりなく作り込む
「足まわりも抜かりなく仕立てました。手間は掛かりましたが、狙い通りの味付けが実現できるアイテムを見つけたのです」
それがオーストリアのSTブーゾー。アラゴスタの前身ともいえるメーカーのダンパーだ。そのころはリバンプ重視が主流だったが、バンプ重視の特性を取り入れていたのが決め手となった。バンプ時にきちんと踏ん張れるとコントロールがしやすいからだ。組み合わせたスプリングは作動量が正確でちゃんとたわんでくれるアイバッハ。変な突っ張りがなくてしなやかに動く。STブーゾーとの相性は抜群によかった。
ブレーキはアルコンで武装。リヤを先に効かせて前のめりにならないように4輪でバランスよく制動する。ホイールはボルクレーシングTEで9J×17だ。まだ「37」が表記される前のツーリングエボリューションモデルである。タイヤはヨコハマ アドバンネオバの225/40R17となる。
「全域で持てる力をフルに引き出せる味付けです。ブースト1.2kg/cm2で約480psをマークしました。始動性のよさとアイドリングの安定感は大前提。低・中速域はレスポンス重視で燃費もいい。そして高回転に向かって圧倒的な加速力と信頼性の両立。最初のデモカーでウチのコンセプトを確立させました。仕様が変わってパワーの大小はあっても、この特性を崩すことはありません。もちろん今でも継続しています」
内永会長は使いこなせるパワーの設定がGT-Rと末永く付き合えるコツだという。簡単にパワーは引き出せるが持て余したら運転するのが億劫になる。また、足やブレーキも充実させることで操れるパワーは増加する。乗りこなせてこそ価値がある。飾っているだけではGT-Rがあまりにもかわいそうだ。
「若いころモトクロスに熱中していたから、乗りこなすことの重要性や魅力、それに乗りこなしやすさの肝が見えてくるんです。少しハードルを上げて練習して上達する楽しさなども体感すれば、いっそうGT-Rが好きになるはずです」
初めてR32をデモカーに仕立てた内永会長の情熱は今も少しも変わらない。その情熱がユーザーのGT-Rに高揚感を与え続けている。
(この記事は2020年2月1日発売のGT-R Magazine 151号に掲載した記事を元に再編集しています)