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フェラーリ「テスタロッサ」が2億6500万円! 世界に1台のはずが、なぜ複数台存在する?

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TEXT: 武田公実(TAKEDA Hiromi)  PHOTO: Vecchio

やっぱりピニンファリーナのセルフカバーは特別?

 1980年代も終わりを告げるころ、イタリアのコーチビルダーであるピニンファリーナのもとに、カスタムプロジェクトを希望するアプローチがあった。それは、当時世界最高と目されていたスーパーカーを、さらに特別なものとすることだった。

 ピニンファリーナはブルネイ王族のためのオーダーメイドで、ほぼ同一の仕様ながら最終的には1台1台が異なる「スパイダー」を7台製作し、それぞれが異なるエクステリアとインテリアの色の組み合わせで仕上げられたと考えられている。

 また、これらのブルネイ向け車両に加えて、ピニンファリーナにとって重要なクライアントのために、ごく少数のテスタロッサ スパイダーが製造されたといわれている。

 ピニンファリーナは、17桁のVINコードという世界的な自動車業界の慣習から離れて、ブルネイ王室のために新しく独自のシリアルナンバーを作成。この個体には「EFG092」という番号が付けられている。

 驚くべきことに、このEFG092はナンバー登録されたことがなく、その生涯のほとんどを静態展示に費やしている。そのため、オークションカタログ作成時の走行距離計は、わずか413kmを表示していた。

 2021年初頭、長らく住処であった展示スペースから引き出されたEFG092は、修復作業を受けるためにイタリアに移動。2つの有名ファクトリーに、相次いで入庫することになる。

 まず同年3月にピニンファリーナに戻され、カンビアーノ本社工場の技術者たちが完全な再塗装を施したのち、コンバーチブルフードの開閉メカニズムの機能を戻した。またインテリアもピニンファリーナによってリフレッシュされている。ピニンファリーナによるこの修復には、合計9万4300ユーロが支払われたという。

 そして2021年11月には、フェラーリの量産モデルに加え、テーラーメイド プロジェクトや「ICONA(イーコナ)」モデルのペイントワークやフィニッシュも委託される、マラネッロのスペシャリスト「カロッツェリア・ザナージ」に運ばれ、メカニカルパートのリビルドも行われた。

 ザナージのエンジニアたちは、クラッチと燃料ポンプを新品に取り換えたほか、エンジンとサスペンションの分解、清掃、修復に取り組んだ。車両の履歴ファイルにある項目別インボイスでは、テスタロッサ スパイダーを「新品同様」の状態に戻した作業に対して合計8万3170ユーロが請求されたことを記している。

ピニンファリーナ謹製だと約10倍以上の値打ち

 しかし、総計約18万ユーロに達するレストア費用も、この個体の価値を思えばリーズナブルな出費と判断したのだろう。RMサザビーズ欧州本社は、140万~180万ポンドのエスティメート(推定落札価格)を設定。そして2022年11月9日に行われた競売ではビッド(入札)が順調に進行し、146万7500ポンド、日本円に換算すれば約2億6500万円で無事落札されることになった。

 ちなみに、2021年1月に北米スコッツデールで開催されたRMサザビーズ「ARIZONA」オークションでは、アメリカのオープン改造スペシャリスト「ストラマン」によってモディファイされたオープン テスタロッサが、16万8000ドル(当時の為替レートで約1900万円)で落札されている。

 同じフェラーリ テスタロッサをベースとするスパイダーであっても、市井のスペシャリストが製作したものとピニンファリーナ自身が製作した、いわばセルフカバー作品では、マーケットの評価はまったく異なるものとなる。

 クラシックカー/コレクターズカーの世界で「ヒストリー」がことさら重要視されることを、如実に示すオークション結果となったのである。

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  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 1967年生まれ。かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)で営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、都内のクラシックカー専門店などでの勤務を経て、2001年以降は自動車ライターおよび翻訳者として活動中。また「東京コンクール・デレガンス」「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントでも立ち上げの段階から関与したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム(埼玉県加須市)」では2008年の開館からキュレーションを担当している。
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