5ナンバー・3列7人乗りの「ちょうどいい」ミニバン
初代「ストリーム」がホンダから登場したのは2000年10月のこと。当時のホンダのミニバンというと、大ヒット作となった「オデッセイ」は2周目(2代目)に突入、ボクシィな実用車だった初代「ステップワゴン」も2001年のフルモデルチェンジを控えた成熟期、さらにラージクラスとしてカナダ生産・北米市場向けの「ラグレイト」が、右ハンドル化されて日本市場へも投入されていた……そんな布陣を敷いていた頃だった。ミニバンといえばホンダ、といった新たなイメージが確立しつつある時期。車名のストリームは、もともとはホンダが1980年代に生産していた3輪のスクーターの名である。
スポーティで走りも楽しめるミニバン「ストリーム」
初代ストリームはホンダのミニバンの商品ラインアップに彗星のごとく姿を現した。ベースとなったのは当時の7代目「シビック」で、いま振り返ってみると、同世代だけにスタイリングにも共通項がなくはない。
ちなみに当時のシビック・5ドアハッチバックが「ビッグキャビン」をうたい文句とし、余裕をもった全高(1495mmまたは1515mm)、前後左右のウォークスルーが可能なフラットフロアなど、M・M思想(マン・マキシマム/メカ・ミニマム)に基づいたパッケージングを構築していたが、ストリームではちょうどその資質をさらに伸ばした形。とはいえホイールベースはシビックの2680mmに対して2720mmと、わずか40mmだけ伸ばしたサイズで、3列/7人乗りを実現したのだった。
箱型のステップワゴンというより、より乗用車的だったオデッセイのより手頃なボディサイズ版といった位置づけで、若いファミリーをターゲットにしていたことから、スポーティで走りも楽しめるミニバンとしても打ち出していた。余談であるが、このクルマの正式発表直前、筆者は北海道・鷹栖のホンダのテストコースで出来たばかりの完成車の試乗をした経験がある。ドイツ・ニュルブルクリンクを模したワインディングで、攻めた走りにも応える実力をサードシートに座って思い知らされたのだが、その時にステアリングを握っていたのは、初代ストリームの開発責任者だった藤原 裕LPLだった。
ちなみにストリームにはデビュー後ほどなく2Lのi-VTEC DOHCの新開発エンジン(K20A型)を搭載。この高性能エンジンを搭載するスポーティグレードとして「iS」が用意された。そのほか1.7LのSOHC VTEC(D17A型)も用意された。バリエーションのすべてにFFと4WDが用意されていたのは、今手元にあるカタログ(2001年10月のもの)を眺めて知ることができるが、記載されている当時の希望小売価格をみると、もっともシンプルな1.7LのGグレードのFF車で158.8万円からと(トップモデルのiS・4WDで227.8万円)、相当に頑張った「お値打ち価格」になっていたことも改めてわかる。
同サイズボディに広めな室内のファミリー志向「ウィッシュ」
さて、ホンダ・ストリームが彗星のごとく姿を現したのだとすると、トヨタ「ウィッシュ」は、ある意味で衝撃的な登場を果たしたクルマだった。
なにしろ2003年に、初代ホンダ・ストリームとは、驚くべきことにまったく同一のボディサイズで登場してきたからである。全長×全幅×全高はウィッシュが4550×1695×1590mm、ストリームもなんと4550×1695×1590mm(いずれもFF車、4WD車は全高が5mmだけ違う)。ホイールベースはストリームの2720mmに対しウィッシュは2750mmと30mm長い。しかし、それにしてもクラスもコンセプトも同じくするモデル同士であるとはいえ「よくもここまで!」と感心させられるほどの数字の重なり方。これはもう、話題作りか何かを目的にあえてそうした……としか思えなかった。
じつは初代ウィッシュは登場時に開発エンジニア、デザイナーなどに取材をする機会があり、もちろんチーフエンジニアの吉田 健さんにもインタビューをした。だが、(今でも鮮明に覚えているのだが)インタビューの場で顔を合わせるなり「わかってるよね、ボディサイズの件はわざわざ話題にしなくていいからね」と、無言のうちのメッセージ(プレッシャー?)を受け取ったような気がして、そのインタビューで筆者はついに「その件」を問いただすことができなかった。いずれにしても、すべての国産車のスペックが頭の中にあるわけではないが、かなり珍しいケースだったことは確かだ。
ウィッシュだが、もちろん3列/7名乗り(6名乗りのグレードもあった)のシート配列、ゲート式のインパネシフトなど、インテリアも酷似した造りだった。ただし数値で追うと、ウィッシュはストリームに対して室内高は同じ1310mmだが、室内長は60mm長く室内幅は20mm広く、フロントシートの座面幅は10mmだけ幅広い……と要所要所で数値を上回らせていた。室内寸法は計測方法、実際の印象が重要で数値はあまり意味をもたないとはいえ、さすがトヨタ! といえる采配だったというべきか。
さすがトヨタ、の部分ではウィッシュにはオーバーフェンダーを装着し全幅を1745mmとしたスポーティグレードの「2.0Z」があった。このグレードは6名乗りだったが、ちょっとコダワリ派のユーザーの心をくすぐるグレードだった。とはいえ総じてスポーティ指向のキャラクター、走りのストリームに対して、あくまでもカローラの延長といったファミリーカーとして万人から支持された商品性の高さは、「後出し何とか」ではあったがウィッシュのポイントだったのである。