最高速300km/hオーバーと史上最速のミニバン
フォード・チャレンジャーのV8エンジン(チャレンジャー260V8=XHP-260や チャレンジャーハイパフォーマンス289V8)を流用したACコブラや、メルセデスベンツのW124型に500SL用の4973ccV8を載せた500Eなど、強力な心臓部を別のシャシーに流用し、ハイパフォーマンス仕様に仕立てた例はいくつもある。しかし、一番規格外だったのは、ルノー「エスパスF1」だったかもしれない。
エスパスF1は、ルノーとマトラの提携10周年を記念して、1995年に作られた4シーターミッドシップエンジンのミニバン。マトラは航空・宇宙産業やミサイルなどの兵器産業、そしてスポーツカーの生産や、ティレルやリジェと組んでF1にも参戦していたフランスのメーカーだ。
エスパスは、もともとマトラが企画、開発、生産に携わったヨーロッパで最初のミニバンで、初代が大ヒットした。そしてエスパスF1は、1991年のモデルチェンジで登場した2代目エスパスがベースになっている。
ベースのエスパスは3列7人乗りのFFで、外板にFRPを採用しているのが特徴だったが、エスパスF1になって一番ぶっ飛んでいたのは、ルノーのF1用エンジンをそのままミッドシップに載せたことだった。
ウィリアムズFW14Bに搭載されていたエンジンを搭載
エンジンは1992年のF1で、ナイジェル・マンセルが開幕5連勝を含む年間9勝を記録し、悲願のワールドチャンピオンに輝いたウィリアムズFW14B(セミATギヤボックス、アクティブサス、トラクションコントロールなどハイテク装備でも有名)に搭載されていた、ルノーRS4そのもの。F1がNA3.5リッターV10時代だったときの最強ユニットといいてもいいシロモノだ。
ニューマチックバルブシステムの先駆けで、最高回転数 1万4500rpm、最大出力760psというスペックを誇り、これを2列目のバケットシートの中央に縦にマウント。
骨格は一応、エスパスのものだが、リヤサスペンションはFW14Bと同じもので、フロアパネルもカーボンコンポジットだった。
エクステリアもカーボンのブリスターフェンダーで膨らませ、フロントドアにはサメのエラのような派手なエアアウトレット。巨大なルーフスポイラーや開口部の大きいフロントバンパーなど、空力的チューンもかなり本格派だ。
その動力性能は、0−100km/h加速2.8秒、ゼロヨン10秒9、最高速300km/hオーバーと史上最速のミニバンといっていい。
実際に1985年、1986年、1989年、1993年のF1チャンピオン、アラン・プロストがハンドルを握って、サーキットでデモラン等も行っている。レーシングゲームのグランツーリスモ2にもエスパスF1は収録されていて、珍車として異彩を放っていた。
最終的には2台が生産され、一台はルノーが保有し、もう一台はマトラ自動車博物館に保存展示されているという。いずれにせよ、歴史に残る珍車なのは間違いない。