景色のよい道を流すには最適なクルマだった
クルマのボディ形式には、セダン、クーペ、SUV、ハッチバック、ワゴン、ミニバンといろいろあるが、希少性、特殊性でいえばコンバーチブルが一番ではないだろうか。
国産車でコンバーチブルというと、マツダ・ロードスターやダイハツ・コペン、ホンダS660など、わりと小型なクルマが多い。しかし、かつては日産も力を入れていて、シルビアやフェアレディZ、マーチなどのオープンカーを作っていた。
オープンカーの開放感はオートバイに近いものがあり、日本の四季を肌で感じ、ドライブすることで日常のストレスから解放され、身体と精神を若々しく保つのに最適な一台だと思う。
そうしたコンバーチブルの中から、今回は日産「シルビアS15ヴァリエッタ」にスポットを当てて紹介したい。
国産車初の電動メタルルーフを採用したクーペカブリオレ
シルビア・ヴァリエッタは、2000年7月に追加されたS15シルビアのコンバーチブルモデル。前年(1999年)の第33回東京モーターショーに、オーテックジャパンと高田工業の共同開発でコンセプトカーが発表され、翌年S15シルビアの「スペックS」をベースにオーテックジャパンが生産を開始した。
シルビアでいえば、先々代のS13にもオーテックジャパンが受注生産していたコンバーチブルモデルがあったが、S13がソフトトップの電動開閉式だったのに対し、S15ヴァリエッタは国産車で初めてのフルオープンタイプの電動メタルルーフを採用したクーペカブリオレだったのが最大の特徴。手元のスイッチを操作すれば、約20秒でメタルトップが収納される。
もうひとつ、フルオープンでありながら、2+2で4名乗車が可能だったのも大事な個性。2+2なのでリヤシートのスペースはミニマムで、大人が4人乗るのは正直厳しかったが、タイトでもリヤシートがあるのとないのとでは、使い勝手がかなり違うのでこれはこれで大きな長所だ。
また、フロントシートのメイン部分に帝人と田中貴金属工業が共同開発した、モルフォトーンクロスを世界ではじめて採用。繊維が光の干渉によって発色する特殊な生地で、見る方向によって色調が変わると注目を集めた。
生産台数は1120台と少ない
動力性能でいうとベースがNAの「スペックS」なので、5速MTが165psで4速ATが160ps。ちなみにクーペのターボモデル、「スペックR」は250psで車重も1240kgで6速MTを搭載していた。
車重もヴァリエッタは、コンバーチブル化の影響でスペックRより90kg重く、1330kgもあり、タイヤもワンサイズ小さかったので、走りはバリバリとはいえなかったが、S15のスタイリング自体が美しかったので、それをコンバーチブルにしたヴァリエッタは、雰囲気の良さは抜群。
1120台が生産され、中古車市場でもなかなか見かけないが、190万円前後がひとつの目安になっている。
ちなみに車名の「ヴァリエッタ」は、イタリア語の「変化」からの造語。電動のメタルトップを閉めて、クローズドボディにすれば(通常のクーペよりトランクが長いスタイル)、雨風はもちろん、遮音性、断熱性なども、ほかのクーペやセダンと同じ感覚で使えるので、中高年になって、景色のよい道を流すには最適なクルマだったはず。
こうした大人のコンバーチブルこそ、今の日本にも必要なのでは……と感じさせる1台だ。