今でも愛する人は多いマニュアルトランスミッション
すでに絶滅危惧種といわれている「MT(マニュアルトランスミッション)」。すでにサーキットでの速さだけでいえば「AT(オートマチックトランスミッション)」のほうが有利であり、当たり前のことだが利便性もいい。しかし、ドライバーが自分で操作をするということや、回転数を維持したり、あえて低回転で走ったりなど、自由な使い方ができる魅力は、ATよりもはるかに大きい。フロアから伸びているシフトレバーを操作し、エンジンの回転数とクラッチ操作、トランスミッションのシンクロギヤによるブレーキがピタッとハマった時の気持ちよさは、ほかではあまり経験できないものかもしれない。
2速の位置に1速?「レーシングパターン」のメリットとは
そんなMTのシフトパターンは、同じように見えて微妙に違っていたりする。たとえば1速の位置。一般的にはニュートラルポジションから左上が1速でその下が2速、ニュートラルポジションの上が3速でその下が4速、右上が5速となるが、たとえばBMWのE30型「M3」には、通常2速の位置が1速となっているものがあった。
レーシングパターンといわれるこのシフトパターンは、左下が1速でニュートラルポジションの上が2速、その下が3速、右上が4速で右下が5速となっている。そのメリットは、サーキットで多用する2速に入れやすい、というもの。サーキットではヘアピンコーナーなどといった低速コーナーでは2速を使うことが多いが、一般的なシフトパターンでは3速から2速にシフトダウンする時、ナナメにシフトレバーを操作することになる。しかしレーシングパターンでは、3速から2速に、減速Gを利用しながら前に直線的に押し込めばいいので、ミスを起こしにくくシフトチェンジに要する時間も短縮しやすい。
同じように、長いストレートでの5速走行時から一気に減速する時、一般的なシフトパターンでは4速と間違えて2速に入れてしまう、といったミスも起こる可能性があるが、レーシングパターンは5速から前に押し込めば4速となるため、ミスが起こりにくい。サーキットのラップタイムを短縮するときに重要なのは、無駄をなくすこと、そしてミスを減らすこと。その思想から生まれたのが、このレーシングパターンなのだ。
押す? 引き上げる? 倒す? 6速MT時代のバック事情
しかし、そんな特殊な事例以外にも、どうなってるんだ? と思うMTのシフトがある。それは「R(リバース)」ギヤの位置だ。一般的に多い5速MTのRギヤは、5速の位置よりも右側下にある。しかし、6速MTが一般的になってきてから、Rギヤの位置はトランスミッションごとに違ってきた。たとえばスバルなどでは、それまでと同じようにRギヤは右側下にありつつも、そのままではRにシフトはできず、ロックリングを引き上げながら操作をすることで初めてRにシフトできるようになっている。
マツダは1速のさらに左の上側にRギヤがあるが、これも普通に操作をすると1速に入るだけ。Rに入れるためには、シフトノブを下に押し込んでから1速よりもさらに左にシフトレバーを操作しなければならない。
ホンダの「シビックタイプR」のRギヤ位置は、6速よりもさらに右の下側にあるが、そこに入れるためにはシフトレバーをぐいっと右側へと倒す必要がある。最も入れやすい方法は、5速や6速にシフトするところまでレバーを倒したら、そこからさらにぐいっと右側へと、結構な力でレバーを倒し、下側へ動かすという方法だ。同じ位置にRがあるアルファ ロメオ「156」の6速仕様(V6エンジン)は、ロックリングを引き上げてRへとシフトチェンジする方式を採用している。
このように、さまざまなRへの入れ方が存在するのは、誤操作を防ぐためだ。左上にRギヤポジションがあるクルマは、1速のつもりでRに入れないようにするためロックを設けており、右下にRがあるクルマは、走行中はRには物理的に入らないにしても、シフトミスを防ぐため、あえて力を加えたり、ロックリングを設けている。
こういったさまざまなRの位置は、シフトパターンの表記を見なければわからない。車検的には、シフトパターン表記がなければ不可、ということになっている。純正シフトノブにはパターン表記があるので問題ないが、社外品のシフトノブに交換している場合には、あらためてシフトレバー周辺にパターン表記を設けておかなければならない。
5速時代なら、そんなものなくたってわかるよ、という感じだったが、いまは無理。初めて乗るクルマのR位置がわからない時は、表記を見て位置を確認し、その上でロックリングの引き上げか、シフトノブを押し込む、あるいはぐいっと力で、というのを試していけば、首尾よく後退できるはず。もし表記が見つからない時は、上記の位置と方法をすべて試せば、どこかで正解にたどり着けるだろう。