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戦後BMWがヒットさせた「イセッタ」にストレッチモデルがあった! 大人4名乗車可能だったBMW「600」とは

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TEXT: 原田 了(HARADA Ryo)  PHOTO: BMW/原田 了

ストレッチしたイセッタには新たなメカニズムも盛り込まれた

 BMW600は、一言でいうならボディとホイールベースをストレッチしたBMWイセッタでした。数字的には全長×全幅×全高とホイールベースがBMWイセッタ250/300では2285mm×1380mm×1340mmと1500mmだったものが、BMW600では2900mm×1400mm×1375mmと1700mmにサイズアップしています。

 全幅と全高が事実上一緒なのに対して全長とホイールベースはそれぞれ615mmと200mm延長されていますが、全長の延長分は2列目シートのスペースに充てられ、ホイールベースを200mm延長したことでサイドドア=2枚目のドアを造りこむことが可能になりました。

 またフロントのトレッドはBMWイセッタ250/300の1200mmと事実上一緒の1220mmでしたが、リヤのトレッドは520mmから1160mmに大きく拡大され“完全な4輪車”となっていました。搭載されるエンジンも一新され、BMWモーターサイクルのR67用をベースにした空冷の水平対向2気筒で排気量582cc(ボア×ストローク=74.0mmφ×68.0mm)、最高出力も19.5HPにまでパワーアップされていました。

 車両重量も360kgから550kgまで約1.5倍重くなっていましたが、パワー的にも約1.5倍となっており、絶対的なパフォーマンスは引き上げられていました。シャシーも後半部分には大きく手が加えられ、サスペンションがリジッドからコイルで吊ったトレーリングアームに変更されていました。

トレーリングアームはBMW600で初めて採用

 後継のBMW700からノイエクラッセを経て1990年代までBMWのリヤ・サスペンションとして重宝されるトレーリングアームは、BMW600で初めて採用されていたのです。その一方でフロント部分は、1枚ドアも含めてイセッタを踏襲していました。

 そのフロントの1枚ドアに関して追記があります。BMWと同じドイツのオートバイメーカーだったツェンダップ(Zündapp)が1957年から1958年にかけて製造していたマイクロカー、ヤヌスについても触れておきましょう。

 敗戦によって航空機製造を禁止されたドイツの航空機メーカー、ドルニエ・フルグゼウグヴェルケは自動車製造を手掛けるべくプロトタイプを製作し1955年のフランクフルトショーで発表しました。ただし自らで生産することは不可能で、ライセンス生産を行うメーカーを探していました。

 これに応えたのが、当時2輪メーカーで4輪進出を探っていたツェンダップだったのです。フロントに1枚ドアを設けるのはイソやBMWのイセッタと同様ですが、こちらはさらにリヤにも1枚ドアを設け、室内には背中合わせの2列シートをマウント。その中間にエンジンを備えるという、いわばミッドエンジンで後輪を駆動するパッケージとなっていました。

 またイセッタとは一味違ったフロントの1枚ドアのデザインでより“可愛らしさ”をアピールしていました。対衝突の法規制が厳しい現代では実現不可能なパッケージですが、今でも魅力的なクルマたちですね。

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  • 原田 了(HARADA Ryo)
  • 原田 了(HARADA Ryo)
  • ライター。現在の愛車は、SUBARU R1、Honda GB250 クラブマン、Honda Lead 125。クルマに関わる、ありとあらゆることの探訪が趣味。1955年、岡山県倉敷市生まれ。モータースポーツ専門誌の地方通信員として高校時代にレース取材を開始。大学卒業後、就職して同誌の編集部に配属。10年間のサラリーマン生活を経て90年4月からフリーランスに。モータースポーツ関連の執筆に加え、オートキャンプからヒストリックカーイベントまで幅広く取材。現在ではAMWに、主にヒストリー関連コラムを執筆。またライフワークとなった世界中の自動車博物館歴訪を続け、様々な媒体に紹介記事を寄稿している。
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