イタリア車好きなら1度は訪れたい!
自分自身、それが似合う伊達男でないことは百も承知なのですが……。それでも自動車王としての誉れ高いヘンリー・フォードが「私は、そのクルマが目の前を通過するときにはいつも、帽子をとって敬意を表すようにしている」とコメントしたとも伝えられるアルファ ロメオには、いつだって興味津々でした。
博物館の取材で初めてイタリアを訪れた時と2度目に訪れた時はともに、アルファ ロメオ歴史博物館は閉館中で、ゲート前で記念写真を撮るのが精一杯でした。2017年にはようやくリニューアルオープンした博物館を取材することができたものの、その後の調べで見たいクルマに出会えていないことを確認。そこで今回、4度目の正直となりました。
博物館の“奥の院”には、まるで宝石のような珍しいクルマたち
アルファ ロメオの企業博物館であるアルファ ロメオ歴史博物館(Museo Storico Alfa Romeo)は1976年にミラノ郊外にあったアレーゼ工場の一角に設立されています。アレーゼ工場では2002年にクルマのライン生産が休止され、2006年にはエンジンの生産も終了してしまいましたが、博物館はオープンし続けていました。
ただし2009年に最初のリニューアル工事を行うために閉鎖(休館)されてしまったのですが、2010年に一度、アルファ ロメオの創立100周年を記念して限定的にオープン。しかし、2011年2月からは再度閉鎖(休館)されてリニューアル工事が進められました。
そして2015年の6月に正式に運営が再開されることになりました。ですから2013年の12月と2015年の2月に訪れた際には閉館中で、2017年の4月に訪れた際に三度目の正直で取材が叶った時には、まさに小躍りしながら博物館の内部を巡ったことを記憶しています。
特別に収蔵保管庫に潜入!
しかしその後、いろいろ調べていくうちに、この博物館に収蔵されているはずのクルマで、2017年の4月には出会えなかったクルマがあることが気にかかるようになってきました。そのクルマというのがともにレーシングカーで、1987年のプロカーレース用に開発されたALFA-Romeo 164 Pro Car Race Spec.と1992年のスポーツカー世界選手権(SWC)用に開発したグループCのALFA-Romeo SE048 SPです。
もしかしたら“巡業”に出ていたのかも、と調べていたら、どうやら博物館に併設されている収蔵保管庫に収められているらしい、とのことでステランティスの広報さんにご相談。今回の取材では博物館だけでなく、収蔵保管庫までの立ち入りが許されることになりました。
アルファ ロメオ164をベースにアバルトとMRDが開発
ということで初対面となった2台ですが、まずはプロカーレース仕様の164から紹介していきましょう。164自体はアルファ ロメオのアッパーミディアムでフィアット(クロマ)やランチア(テーマ)、そしてサーブ(9000)と共同のTipo4プロジェクトで開発されたアッパーミディアムの4ドアセダン。
それをベースにしたプロカーレース仕様というのはアバルトとMRD(Motor Racing Developments=F1GPで活躍していたブラバム系のエンジニアリング会社)が共同で製作したマシンで、カーボンファイバー製のモノコックにアルファ ロメオ製の3.5L V10のF1GP用V1035エンジンをミッドシップに搭載。164に似たシルエットのアウターパネルを被せていました。まさに羊の皮をかぶった狼、というべきレーシングカーだったのです。
アバルトが開発した幻のグループCと対面!
一方、今回初対面となったもう1台は幻のグループCと呼ばれるSE048SPでした。これはフィアット・グループとしてはグループCの黎明期に参戦していた、ランチアのLC1/LC2の後継モデルという立ち位置のマシンで、グループC規定が大きく変貌を遂げたのを機に計画されたもの。
当時ランチアは世界ラリー選手権で手一杯。同じくグループ内のフェラーリもF1GPを全力で戦っていたために、SWCの担当はアルファ ロメオとなり、アバルトが開発を担当していました。ちなみに搭載されたエンジンはプロカーレース仕様の164と同じ3.5L V10のF1GP用V1035ユニットでした。
2台ともに収蔵保管庫に収められていたために、写真撮影は時間も含めて限られたものとなってしまいましたが、4度目の正直で出会っただけに、一目見られただけでも感涙ものでした。この2台に関しては、また機会を改めて写真も集めて、メカニズムなどの詳細を紹介してみたいと思っているのでお楽しみに。
ロードモデルもレーシングカーも魅力的なクルマにあふれていました
収蔵保管庫には、ほかにも魅力的なクルマたちが収められていました。それぞれ1台ずつならいくつかの博物館で出会ったことのあるツーリングカーレース用のアルファ ロメオですが、1988年のジロ・デ・イタリアに参戦するために開発された75 Turbo Evoluzione IMSAと1996年の国際ツーリングカー選手権(ITC)用に開発された155 V6 TI。そして 2003年のヨーロッパ・ツーリングカー選手権(ETC)用に開発された156 GTA D2の3ショットが見られたのも感激でした。
また前回訪れたときには博物館の方に展示されていた1952年Disco Volanteのクーペ版とは、今回は収蔵保管庫で出会うことになりました。なので、プロカーレース仕様の164や幻のグループCと呼ばれるSE048SPもいつかは博物館で出会う可能性も。Webを確認しながら待つ価値は十分です。
もちろん、アルファ ロメオ歴史博物館そのものにも魅力的な展示車両がいっぱいありました。旧くはALFAとして会社が設立された1910年に完成した24HPから、2007年式の8C Competizione“Concept”までアルファ ロメオ100年の歴史を振り返るに十分なモデルが勢揃い。
興味深かった1台としては、1913年式の40-60HP“Aerodinamica”。空気抵抗の低減を考える、との触れ込みのようで、博物館で出会う前に雑誌の記事で見かけたときには“枯れ木も山の……”的なモデルと思っていたのですが、実物はしっかりと造り込まれていて驚かされました。
個人的に“刺さった”のは、1970年代半ばの世界メーカー選手権 (World Championship for Makes)に参戦していた1975年シーズン用のTipo 33/TT 12や77年シーズン用のTipo 33/SC 12 Turbo、そして1979年から82年のF1GPに参戦していたTipo 179の最終バージョン、初めてフルカーボンモノコックを採用した179Fといったあたり。
某モータースポーツ専門誌のレポーターを務めながら、雑誌でメーカー選手権やF1GPの記事を読み耽っていたころで、今回は記憶を辿りつつ、感激しながら写真撮影を続けていました。アルファ ロメオ歴史博物館にはもちろん、レーシングカーだけでなくロードモデルも数多く展示されています。
1955年式のジュリエッタや1973年式のアルファスッドなど気になるモデルもありましたが、やはりロードモデルよりもレーシングカーの方がアルファ ロメオらしい、と感じさせられたアルファ ロメオ歴史博物館でした。