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約530万円! 「ネコ目の宇宙船」のようなシトロエン「DS」が自動車史に残る名車と呼ばれる理由は?

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TEXT: 武田公実(TAKEDA Hiromi)  PHOTO: Courtesy of RM Sotheby's

名車シトロエンDSのオークション評価はいかに

 今回のRMサザビーズ「LONDON」オークションに出品されたシトロエンDS19は、実業界のエグゼクティヴや高級官僚のショーファードリヴン・ユースのために少数が製作された「プレスティージュ」仕様車。

 フレデリック・フォーサイスの小説を映画化した『ジャッカルの日』(1973年公開)の冒頭にて、フランス閣僚・官僚たちを乗せたおびただしい数のシトロエンDSたちが、謀議の会場を一台一台あとにするシーンをご記憶の方もいらっしゃることだろうが、あのシーンに登場するDSの多くがプレスティージュ仕様だったといわれている。

 プレスティージュは、DS/IDを2ドア・デカポタブル(コンバーチブル)化したメーカー公式特装モデルや、DSシリーズをベースとするフランス大統領公用車「プレジダンシャル」の架装も担当した名門カロジエ「アンリ・シャプロン」社がメーカー公式モデルとして製作したもので、革張りのインテリアや前後キャビンを分けるパーテーション、ショーファーとの会話に使用するインターホンなど、豪華な装備が施されている。

 さらに純正クーラーも装備された今回の出品車は、2016年にカリフォルニア州サンタバーバラを拠点とするディーラーによって、ヨーロッパ大陸からアメリカに輸出されたのち、2019年12月にアメリカのオークションで販売。そののち英国に輸出され、2021年1月に登録されたことが、オークションWEBカタログに記されている。

 DSプレスティージュらしい漆黒のボディカラーに、シルバーのパネルが貼られたCピラー。そしてライトグレーの本革インテリアのコンディションは、カタログ写真を見る限りでは極めて美しい。カタログでは、デビューから60年以上経った今となっても、まるで未来からの幻影のように見える魅力的な1台、と謳われていた。

名門コーチビルダー製のDSは、約530万円で落札

 RMサザビーズ欧州本社は、出品者である現オーナーとの協議の結果、2万5000~4万5000ポンドという推定落札価格を表示するとともに、この出品を「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」で行うことを決定した。

 この「リザーヴなし」という出品スタイルは、安値でも落札されてしまうリスクもある一方で、いかなる制限もなく確実に落札できることから会場の空気が盛り上がり、ビッド(入札)が進むというメリットもある。

 そして、実際の競売では3万2200ポンド、日本円に換算すれば約530万円で落札されることになった。この価格は、現在の国際マーケットにおけるDSの評価としてはじつに標準的ながら、プレスティージュとしては比較的リーズナブルなもの。落札者は、なかなか良い買い物をしたかと思われるのである。

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  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 1967年生まれ。かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)で営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、都内のクラシックカー専門店などでの勤務を経て、2001年以降は自動車ライターおよび翻訳者として活動中。また「東京コンクール・デレガンス」「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントでも立ち上げの段階から関与したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム(埼玉県加須市)」では2008年の開館からキュレーションを担当している。
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