定期的な健康診断で早期発見に努めたい
その店名が示すとおり、修理および整備をメインに施工するプロショップ『目黒メンテナンスサービス』。第2世代GT-R専門店ということもあり、これまでに同店で手掛けてきた個体は数知れず。多くの悩めるオーナーに救いの手を差し伸べてきた「町医者」目黒眞也代表にトラブル回避の極意を聞いた。
(初出:GT-R Magazine 164号)
真の状態は見た目では判断不可! 何かしら問題を抱えているはず
日産ディーラーのメカニックを7年、GT-Rをメインに扱うチューニングショップで6年間チーフメカニックを務めた後、平成13(2001)年に独立して自身の店舗『目黒メンテナンスサービス』を立ち上げた目黒眞也代表。速くするためのチューニングよりも、安心して長く乗り続けるためのメンテナンスを重視するそのスタンスは、創業から21年経った今も変わらない。基本的に目黒代表が責任を持ってすべての作業を実施するため、今も多くのGT-Rオーナーが施工の「順番待ち」をしている人気店だ。
今回の巻頭特集のテーマを伝えると、
「すでに第2世代GT-Rにはまともな個体がなく、そのすべてがシビアコンディションだと思ったほうがいいですね」とショッキングな言葉が告げられた。
もっとも古い最初期のR32で32年半、最終型のR34でも20年。新車からそれだけの期間が経過していることを考えれば、目黒代表の言葉は決して大袈裟でない。フルノーマルだろうがチューニング済みだろうが、また走行距離の長短も関係なく「普通のクルマはない」という。
交換サイクルは距離だけではなく使用年数も考慮したい
「オリジナルを維持しているノーマルで走行も少ないからといって、状態がいいとは限りません。むしろ、部品の交換歴が少ないほうが錆によるボルト/ナットの固着など、分解整備をするのが大変なケースが多いです。最近は3年、4年放置していたというGT-Rが入庫することが増えてきたのですが、どれも悲惨な状態ですね」と現況を語る。
整備を生業としているだけに、これまでさまざまな症例と向き合ってきた目黒代表。今もっとも危惧しているのは、エンジン関係のトラブルだという。
「純正部品が値上がりしている昨今、エンジンを壊すととにかく高く付きます。シリンダーブロックが割れてしまったケースなどは最悪です。価格云々以前に、純正ブロックが納期未定で、発注から1年以上が経過しても入荷しない状況です。そのため、本体を損傷するような深刻なトラブルを抱えると、最低でも1年以上は作業ができません」
そうならないための「予防整備」として、どのような対策が考えられるだろうか?
「まずはクルマの健康診断を定期的に受けることです。年に一度、できれば半年に一度は点検を受けることをお勧めします。いわゆる一般の法定点検に加えて、GT-R特有の不具合をひと通り診断することで、トラブルを未然に防ぐことができます」
「型式別で言うとR32は唯一バッテリーがエンジンルーム内にあるので、配線やターミナルが傷みやすい傾向にあります。エンジンの力が抜けた感じになるときがあるとか、ハイキャスのワーニングランプがたまに点くという場合はターミナルの劣化が疑われます。それらは電圧不足による症状なので、バッテリーやオルタネーターを交換しても改善されません」
「R33は第2世代では一番不具合が少なく、R34で目立つのは点火系のトラブルです。パワートランジスタ内蔵のコイルが採用されているため、熱の影響で壊れやすいです。R32やR33でもR34のコイルを流用している場合は注意が必要です」と目黒代表は語る。
ほかにも固有のトラブルはあるというが、とくに注意を払ってほしいのは「距離ではなく年数」だという。
「タイミングベルトは10万kmごとの交換がメーカー指定となっているのは知られていると思います。しかし、実際にはタイミングベルトが切れるトラブルはごく稀で、恐いのはプーリーのベアリング破損です。ベルトを換えてからまだ2、3万kmだからと安心していても、3、4年くらいあまり乗らずに放置されている場合はベアリングが錆ついています」
新車から使い続けている部品はいずれ不調を来す可能性が高い
タイミングベルトプーリーのベアリングが破損してしまうと、プーリー本体が落ちてベルトが外れてしまう。そうなると一瞬でバルブとピストンがぶつかってしまい、エンジンにダメージを負うことになる。定期的に乗っているならば10万kmという交換サイクルが一つの目安になる。だが、ほとんど動かしていない個体の場合、距離ではなく交換からどの程度年数が経っているかを意識しないと痛い目に遭う可能性がある。
それはエンジンオイルも同様で、交換から数百kmしか走っていなくても、数年経っていればオイルは確実に劣化している。シリンダー内のオイルが下がり、内部に錆が発生している可能性も。エンジンオイルは最低でも一年に一回は交換したほうがいいとのことだ。
そして、第2世Rで注意してほしいのが燃料ポンプのモジュレーターだという。
「R32は右のリヤフェンダー内にユニットがあり、設置場所の環境としては最悪です。電装品が外にあるようなもので、大抵の場合は腐っています。R33は右リヤサスペンションの取り付け部のストラットタワーにあるので腐ることはありませんが、サスペンション交換の際にユニットを脱着する必要があり、ちゃんと固定されずに戻されてガチャガチャと動いて壊れるケースがあります」
「ちなみに、R34はトランク内のナビユニットの下にあるのでトラブルはほとんどありません。ポンプのモジュレーターが破損すると突然エンジンが止まってしまうので、当店では壊れる前に対策することを薦めています。純正部品は製廃になっているため、作業は車載ECU専門のリビルトメーカー『キャニーエクイップ』に依頼し、内部基盤のリフレッシュを施してもらいます」
「こういうものだ」という思い込みこそが危ない
また「いつ交換したかわからない部品」は順次交換していくべきと警告する。
「新車から一度も換えたことがないということは、20年、30年も使い続けているということです。新車で購入してから乗り続けているワンオーナーならば換えたことがないパーツはイメージできるはずですが、中古で手に入れたという方は自分で判断するのが難しいでしょう。そういう場合は各部の点検と健康診断で、どこがダメになりそうか判断することができます」
「よくあるのが『こういうものだ』とオーナー自身が異変に気付いていないパターンです。来店された際、明らかにおかしな音が出ていてそれを指摘しても、いつもと同じでそれが普通だと思っている方もいらっしゃいます。突然音が出たり止まったりすれば故障として認知できますが、ずっとその状態で乗り続けている場合、それが正常だと思い込んでしまうのです。そのまま放置していたら大変なことになりかねません。そうならないためにも、半年に一度は健康診断を受けることを推奨します」
自分でトラブルに気付いていないことほど恐いモノはない。取り返しの付かない事態を招く前に早期発見に努めたい。
「あとは、たまにしか乗らないという方に気をつけてほしいのがバッテリーの状態です。毎回ジャンプスタートでエンジンを掛けて乗っているというのは最悪です。セルモーターが回ればエンジンは始動できますが、バッテリー信頼度が低下している場合、走行中にオルタネーターが頑張っているからなんとか走れているだけなのです」
「本来必要な電圧に達しておらず、燃調が滅茶苦茶な状態に陥っている場合もあります。それも『こういうものだ』と気付かずに乗っていると重大なトラブルの元になる可能性があります」と目黒代表は忠告する。
2年に一度の継続車検だけでは、危険信号を事前にキャッチすることは難しいと認識したほうがよさそうだ。
(この記事は2022年4月1日発売のGT-R Magazine 164号に掲載した記事を元に再編集しています)