著名人の元愛車は高値がつくのか?
ヨーロッパやアメリカの一流オークションハウスでは、著名なセレブレティたちの「元愛車」たちが出品される機会が、けっこうな頻度である。しかし、世界の誰もが知るスーパースターの元愛車がオークションなどで「For Sale」とされることは、そうそうあるものではないようだ。今回はその例外的なエピソードをお届けしたい。
2022年11月9日にRMサザビーズ欧州本社が開催した「LONDON」オークションに出品され、世界的な話題を提供した一台。今は亡き世界的ロックスター、フレディ・マーキュリーが愛用したロールス・ロイス「シルバーシャドウ」と、そのオークション結果についてレポートしよう。
R-Rシルバーシャドウって、どんなクルマ
故フレディ・マーキュリーのロールス・ロイスについて言及する前に、まずは「シルバーシャドウ」というモデルのあらましについて、説明せねばならないだろう。
1965年9月に発表されたシルバーシャドウは、前任モデルにあたる「シルバークラウド」のようなクラシカルなスタイルから飛躍し、モダンにしてクリーンな3ボックススタイルのモノコックボディを持つサルーンとなった。
そして、そのボディの下に隠されたメカニズムも一気に革新派に転向。1950年代までの保守的なR-Rの伝統を覆す、アヴァンギャルド的テクノロジーが満載されていた。
パワーユニットはシルバークラウド/「ファントムVの」総軽合金製V8 OHVエンジンが踏襲されるものの、それまでリーフ式固定軸だったリアサスペンションは、シトロエン特許のハイドロニューマティックを採用した自動車高調節システムつきの独立懸架。ブレーキも旧来のイスパノ・スイザ式メカニカルサーボつき4輪ドラムから、一挙にハイドロニューマティックによる油圧作動の4輪ディスクとなる。
その一方で、内/外装のフィニッシュの素晴らしさはR-Rの名に恥じないもので、バァ(玉杢)・ウォルナットのウッドトリムとコノリー社製最高級レザーハイド、ウィルトンのウールカーペットが奢られ、ゴージャスきわまるキャビンとなっていた。
しかし、シルバーシャドウでもっとも特筆すべきトピックは、それまでの英国におけるシルバークラウドが、旧来の階級社会を映し出すような伝統的R-Rだったのに対して、新しい産業で立身を遂げたミリオネアやロックスターなど、新世代の富裕層の需要を喚起したことといわれている。
姉妹車である「コーニッシュ」とともに1960〜70年代のポップカルチャーを象徴する存在となったシルバーシャドウは、ロールス・ロイスというブランドに対する大衆のイメージをも上書きすることになったのだ。