趣味や文化も、こうして若い世代に継承されてゆく
11月ごろからか、横田正弘館長のSNSでは朱里さんおよびジュリアTIとともに運転の特訓を行う動画がいくつかアップされるようになった。
その9カ月前に、わずか二週間の短期集中コースで運転免許証を取得したという事実からすれば、朱泉さんはなかなか「スジが良い」タイプのようなのだが、館長はかなりのスパルタ方式でクラシックカー操縦法を仕込んだようだ。
そして、ついに訪れた12月11日。早朝から袖ヶ浦フォレストレースウェイにやってきた朱泉さんと妹さんは、はた目にもワクワクがとまらない様子。そのかたわら、館長はちょっと心配げな表情にも映る。それでも朱泉さんは、スタート前に行われるドライバーズミーティングにおいても、並みいるベテランエンスー諸氏を前にして、今回の初走行組代表として堂々とあいさつ。初のサーキット走行ながら物怖じする様子などまったく見せることなく、早くも大物の片鱗をうかがわせていた。
まずはカルガモの母鳥のように館長がリードしながら走る
この日のTBCCスポーツ走行枠は二本で、走行時間はそれぞれ約15分。レース形式ではないので予選などはなく、初心者向けガイダンスを受けたのちに、いきなりコースインすることになる。朱泉さんとジュリア・ベルリーナTIは、サーキットデビュー組の原則にしたがって最後尾につき、その前を赤い英国製レーシングスポーツカー、トルネード・タイフーンに乗る横田館長が、カルガモの母鳥のようにリードしながら走ることになった。
祖父と孫娘、二台の走りは終始ゆっくりしたものだったが、それでも館長は、後方から抜かしてゆくクルマへのコンタクトやライン取りなどを、実地でコーチしようとしているかに見える。
またエントリーしたりいという意気込みも
一本目の走行枠を終えてピットに戻ってきた朱泉さんは、妹さんと持参したお菓子を分け合いつつ大はしゃぎするなど、かなりリラックスした様子。初走行の感想をうかがってみると、一本目の一周目は、後方から追い越してゆく速いマシンたちが怖かったそうだが、その恐怖心も二周目には早くも薄れ、楽しい気持ちが大きくなってきたとのことであった。
そののち、二本目の走行枠では少しだけスピードを上げたものの、カルガモ走行スタイルは変わらず。ただ、コーナーでの挙動がはっきり見えるジュリアだから分かることなのだが、コーナーリングフォームが次第にキレイになってくるさまが見受けられた。
そして、一本目以上に楽しそうな表情でパドックに戻ってきた朱泉さん曰く「ぜひまたエントリーしたいです!」とのこと。今回は祖父についてゆっくり走ったが、次回はもっとペースアップして、よりスキルアップを図りたいという希望も語ってくれた。
いっぽう先導の大役を終えた横田館長は、満足げな表情をうかべつつ「いつか俺が居なくなったときに、昔おじいちゃんと一緒にサーキットを走ったという思い出が残ってくれれば、それでいいよ」と語っていた。
こうして趣味や文化も、次世代に継承されてゆく。19歳の新たなエンスージアストの誕生に、そんな感慨を覚えたのである。