いざというときに災害時にも役立つボックス型ミニバン
かつて、「走るラブホ」なんて、一部の若者が”勝手に”呼んでいたクルマがあった。その代表格が、1996年(平成8年)に登場したホンダのクリエイティブムーバーの1台、若者をターゲットとしたプチバンのS-MXだ。当時、筆者は講談社ホットドッグプレスのクルマ記事担当をしていて、例の「走るラブホ」カーと名付けた記憶がある。
では、どうしてS-MXが「走るラブホ」と称されたのか? その理由は明快。前後席ともにベンチシートで、前席のカップルがラブラブな状態でドライブを楽しめるほか、前後席を低くフラットに倒すことができ、車内があっという間にベッドルーム化できたのである。
しかも、ティッシュボックス置き場はもちろん、純正アクセサリーに全周カーテンが用意され、なんとリアサイドウインドウ部分のちょうどいい場所に“小さなポケット”まで付いていて、カップルにとって使い勝手は抜群だったのである。
トヨタbBもカップルに大ウケした1台
もう1台は、2005年(平成17年)にデビューした2代目トヨタbBだ。DJ感覚のデジタルオーディオプレーヤーや妖しく光る車内イルミネーション、そしてなんといってもフロントシートのシートバックを低く沈み込ませるようにほぼ水平に倒す「マッタリモード」なるシートアレンジを装備。すると、フロント、サイド、リアウインドウからの視線が遮られる、まったりできるベッドスペース(!?)が出現。カップルに大ウケした経緯があった。
しかし、今ではそんな若者向けの遊び心満載のクルマは、ない。とはいえ、車内をベッドスペース化したい人にとっては、むしろ今のほうが、「走るラブホ」的クルマを選びやすくもある。
そう、過去から現在までのボックス型ミニバンが、「走るラブホ」になりうるのである。嬉しいのは、前席そのままで、2/3列目席部分だけ、初めからフルフラット状態にしておけばいい簡単アレンジが可能な点。余計な操作なしで、サッと後席部分に移動すれば、そこがS-MXやbBよりずっと広く快適なベッドスペースになっているというわけだ。
しかも、ミニバンの多くには、プライバシーシェードなどと呼ばれるすべてのウインドウを覆うアイテムが純正アクセサリーとして用意されているから、プライバシーもばっちり。前席背後をパーテーションしておけば、女子を助手席に招き入れても後席部分は見えず、最初から妖しくは見えないのではないか。
「走るラブホ」は健全なアウトドアのためのアレンジとしても通用する
ボックス型ミニバンが現代の「走るラブホ」として成立しやすい決定的な理由は、空前の車中泊ブームにある。平成時代には通用しなかったかもしれないが、ボックス型ミニバンの後席をフルフラットにした状態は、イコール車中泊車としての室内空間であり、健全なアウトドアのためのアレンジとして通用するのだ。
相手が、なんで車内がこんなふうになっているの? と怪しんだとしても、そう説明すれば、むしろアウトドア、車中泊に対する憧れや期待が膨らみ、「私をスキーに」ならぬ、「私をアウトドアに連れていって」となるかもしれない。
アウトドア→車中泊→イチャイチャという流れは、ある意味、今となっては決して不純ではない。それを叶えてくれるのが、ホンダ ステップワゴン、日産セレナ、トヨタ ノア&ヴォクシーといった新旧のボックス型ミニバン(の2列目ベンチシート仕様+フラット化のためのマットレスやクッション枕)なのである。
またはホンダ フリードのような5ナンバーサイズでも室内広大かつ、ベッドアレンジが行いやすいコンパクトミニバンなのである。AC100V/1500Wコンセントが付いているHVモデル(ノア&ヴォクシー、先代ステップワゴンに設定あり)なら最強だろう。
軽自動車やプチバンでも、車内のベッド化や車中泊は可能だが、ポイントは、何かあったときにすぐにクルマを移動させられるよう、前席がそのまま使える状態であること。軽自動車やプチバンでは、室内長の関係からそれは難しい。やはり、ボックス型ミニバンの2/3列目席フラットアレンジが車内のベッド化としては適切なのである。
ただし、車種を選択する前に、純正、非純正を問わず、すべてのウインドウを覆う、ジャストフィットするプライバシーシェードやカーテンが手に入るかを確かめたい。筆者は以前、2代目ホンダ オデッセイに乗っているときに、自作で全周張り付け式遮光シェードを自作し、2/3列目席をリビング&ベッドルーム化していたが、採寸から修正、完成までけっこう大変だった。なお、前席背後のパーテーション、リアウインドウのシェードは、走行中は開けておくこと。デジタルルームミラーがあればより便利に使える。
一方、そうした「走るラブホ」的車中泊カーは、災害時にも威力を発揮する。車内がマイ避難所になる。ペットと暮らしている人は、とくにイザというときに使えるだろう。