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「押してはいけない」VW新型「ゴルフR」のスイッチとは? プロドライバーが腰を抜かしかけるほどの取扱注意物件でした

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TEXT: 木下隆之(KINOSHITA Takayuki)  PHOTO: 神村 聖

狂乱の加速をいなす「Rパフォーマンストルクベクタリング」

 ただし、本気になってスロットルペダルを床まで踏み込むと、事態は一変する。2Lから320psを絞り出すということはつまり、ターボ過給圧をギリギリまで高めていることを意味する。アイドリング付近の低回転域にわずかなトルクの谷が存在するものの、それが劇的な盛り上がりの序章となる。フル過給が始まると、ドカンとパワーが炸裂するのだ。

 組み合わされるトランスミッションはツインクラッチの7速DSGであり、間髪入れずに電光石火の変速を見舞う。レスポンス遅れはまったくなく、一気呵成に速度を高めていくのだ。

 それでもスタビリティを失わないのは、Rが前後の駆動トルクを自在に配分する「4MOTION」の四輪駆動システムだからだ。さらに新型で採用された「Rパフォーマンストルクベクタリング」ではリアの左右輪のトルク配分をこなす。これは、リアデフの左右にそれぞれ多板クラッチが組み込まれており、たとえば旋回中にアンダーステアを感じたら外輪のトルクを増強させる。テールスライド気味の挙動におちいれば、内輪のトルクを増やして安定性を確保するといった具合である。

 しかもご丁寧に、後輪の駆動配分を高めたレースモードまである。ドリフト旋回するほどではないが、限界域まで追い込むとテールスライド気味の挙動が顔を出す。少なくても頑固なアンダーステアはそれによって補正されるのだ。

禁断の「R」スイッチは取り扱い注意!?

 そんなだから、走りは激辛である。市街地ではあれほど大人しく優しい乗り味だったのに、その気になった瞬間に牙をむく。サーキットのように路面が安定しているステージならば穏やかだが、アンジュレーションのあるワインディングでひとたび鞭をくれると、かなりのジャジャ馬に変貌する。

 アンダーステアとテールスライドが激しく入り乱れる。それを制御するには、それ相応のドライビングテクニックが求められるだろう。

 さらにステアリングスポークの左親指付近には、禁断の「R」スイッチがある。それを押せば瞬時に戦闘モードにセットされる。そのジャジャ馬的な操縦性に叩き込まれるのだから、軽はずみに、禁断のスイッチに触れない方がいいだろう。

 平常心でいるならばゴルフRは極めておとなしい。紳士のハッチバックでありながら、ひとたび戦闘モードに突入すれば獰猛な牙を剥く。その変貌ぶりに腰を抜かしかけた。

 それはつまり、分別ある大人のホットハッチという言い方ができるのかもしれない。

 

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  • 木下隆之(KINOSHITA Takayuki)
  • 木下隆之(KINOSHITA Takayuki)
  • 1960年5月5日生まれ。明治学院大学経済学部卒業。体育会自動車部主将。日本学生チャンピオン。出版社編集部勤務後にレーシングドライバー、シャーナリストに転身。日産、トヨタ、三菱のメーカー契約。全日本、欧州のレースでシリーズチャンピオンを獲得。スーパー耐久史上最多勝利数記録を更新中。伝統的なニュルブルクリンク24時間レースには日本人最多出場、最速タイム、最高位を保持。2018年はブランパンGTアジアシリーズに参戦。シリーズチャンピオン獲得。レクサスブランドアドバイザー。現在はトーヨータイヤのアンバサダーに就任。レース活動と並行して、積極的にマスコミへの出演、執筆活動をこなす。テレビ出演の他、自動車雑誌および一般男性誌に多数執筆。数誌に連載レギュラーページを持つ。日本カーオブザイヤー選考委員。日本モータージャーナリスト協会所属。日本ボートオブザイヤー選考委員。
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