コロナ禍で増えた移動販売車
コロナ禍で移動販売車の需要が右肩上がりで伸び、現在、最も活気がある注目の市場のひとつと言われている。東京都の移動販売車の営業許可件数を例にすると、その数は1989年(平成元年)が415件だったのに対して2022年はその約8倍にも上る3397件にまで増加している。まさに空前の移動販売車ブームと言える状態で、街中ではお洒落なキッチンカーが並ぶ光景が日常になっている。
移動式の美容サロンカー
キッチンカーではなく訪問美容の観点から、フォルクスワーゲン「タイプ2」(通称ワーゲンバス)を使って移動式の美容サロンカーを作ってしまったのが栃木県・宇都宮市に「アントルシャン美容室」を構える山崎貴章さん、佳子さんご夫婦だ。
そもそも山崎ご夫婦が「美容サロンカーを作ろう」そう思ったきっかけは、不便な思いをしている人たちの手助けをしたいという気持ちからだった。
山崎さんに話を伺うと、次のような理由から美容サロンカーを作ろうと思ったそうだ。
「病気や障害をお持ちの方やご家族の介護をされている方、そして、妊娠中や乳幼児のいる方、ご高齢で外出が困難な方、さらに精神疾患の方など、様々な理由で髪を切りに行きたいけど、お店に訪れるのが難しい方がたくさんいることに気づきました。そうした人たちのために、実店舗とは別に、こちらから出向いて、訪問し施術ができるクルマがあったらきっと喜んでもえるのではないか。そんな理由で美容サロンカーを製作しようと思いつきました」
むかし乗っていたタイプ2のベース車探しから
最初の段階ではVWタイプ2にこだわっていたわけではなく、しっかり車内で立った状態でお客さんを迎え、施術が出来れば良いと考えていたそうだ。広さがそこそこあるクルマで、移動型である以上、タフな使い方をしても丈夫で壊れない。そんなベース車のことを考えていると、ふと過去にずっと好きで乗っていたVWタイプ1(ビートル)やタイプ2の事を思い出したという。
とくにタイプ2はよくキッチンカーとして使われることが多い。室内もそこそこ広く、自由にレイアウトできる。それに空冷VWエンジンは、実際に乗っていたから、とても丈夫で壊れにくいことが分かっている。それに何よりもタイプ2の美容サロンカーなら、見た目もお洒落でお客さんにも喜んでもらえるはず。そこで早速、ベース車探しを開始したそうだ。
しかし、これがとんでもなく大変だった。実際、ベース車を探してみると、通常のタイプ2ではルーフが低く、美容スタッフが立ったまま施術することが出来ない。そこで、室内にゆとりがあるタイプ2のキャピングカーとして知られる「ウェストファリア」を探すことに。だが、これもスムーズにはいかず、そのほとんどがポップアップルーフモデルだった。
タイプ2では難しいかとあきらめようとしたときに、知り合いのVWショップから連絡が入った。それは、福島県の納屋にVWタイプ2ウェストファリアのハイルーフ仕様が眠っているという情報だった。
すぐに現地に向かって現車を確認。けっこう傷んでいたが、なんとか修復可能だったので購入。レストアしながらサロンカーとしての装備を加えていくことになる。ここからの作業は、はっきりいって山崎貴章さんのこだわり、というかほとんど趣味的な要素が加わったリメイク&製作作業になったらしい。楽しみながらレイアウトと装備を仕上げていった。
店舗と同じ椅子を設置
店舗と変わらない質を提供するために、VWタイプ2ウェストファリアの内装は冷暖房完備で、換気システムとなるベンチレーターも装備。シャンプーカットもできるように温水シャワー付きの美容サロンカーとして見事に完成。
車内に設置した椅子は実際の店舗で使っている物と同じで、道具も含めて仕事のやりやすさを考え、店舗と同じ物を揃えている。
車内は、清潔感のある白い壁にお洒落なオールドスタイルのアンティーク家具の組み合わせ。オールウッド仕上げで、とても落ち着ける空間だ。こんなお洒落な美容サロンカーなら、誰だって一度は経験したいと思うだろう。