米国のモンスタートラックとは
アメリカ発祥の4×4カスタムである「モンスタートラック」について、皆さんはご存じだろうか? 車高を思いっきり持ち上げ、サスペンションを強化し、可能な限り大きなタイヤを履かせるスタイルは「大きければ大きいほうが良いに決まっている」というアメリカの思想を、まさになぞる形で進化を遂げたカスタムといっていいだろう。
基本的にモンスタートラックは競技車両として製作されるものだ。クルマを何十台も並べ、その上を走らせる障害レースや、跳んだり跳ねたりの凸凹山のコースを全開で駆け抜け、ひっくり返りながらもゴールを目指す荒々しいスタジアムレースが盛り上がりをみせている。
ストリートでの目立ち度はハンパない
今回紹介する戸枝隆行さんは、そんなモンスタートラックが大好きで、自らの愛車をリフトアップマシンとして仕上げた。日本では、アメリカ発祥のモンスタートラック誕生から約10年後、1980年代後半から90年代に流行ったRVブームをきっかけにモンスタートラックを模したハイリフトカスタム文化が注目され大流行。本来のRVとは名ばかりとなり、ストリートでより目立つためのカスタムベース車としてその姿は都会で多く見かけるようになった。
戸枝さんも、まさに若かりし頃、熱く盛り上がったハイリフトカスタム時代を経験したひとり。昔から人に見られるのが大好きな性格だったこともあり、カスタムするならモンスタートラックによく似たハイリフトが良いと、当時も大胆な改造に励んだと話す。
結婚してしばらく、ハイリフト車から離れた生活を送っていたが、やはり背の高いクルマに乗る感覚が忘れられず三菱「デリカスペースギア」を購入。使い勝手の良い四駆スタイルとパーツの豊富さ、そして、いじりやすさとの面から、PD6W型デリカスペースギアにぞっこんになってしまう。よくよく話を聞いてみると、じつは現在乗っているデリカスペースギアは4台目のクルマとのこと。「デリカD:5」が登場してからも、先代のPD6W型が好きで、ずっと同じクルマを購入し、乗り継いでいるそうだ。
PD6W型デリカスペースギアを3台も乗り継ぎ、ハイリフト仕様車として手がけた4台目は、あらゆる面で考え尽くされていた。カスタムの肝である車高アップについては、10インチを大きく上回る12インチ(約30cm)リフトアップを達成。もちろん、そんなキットは販売されていないので、ワンオフで製作した。
15インチをあえてチョイスした理由とは
設計する段階では、アームに角度がついてしまうと乗り心地が悪くなるので、専用ブロックを製作してアーム類が水平を保てるように調整した点がポイント。以前に乗っていた仕様はアームに角度が付きすぎて、サスペンションジオメトリーのバランスが崩れたことで乗り心地が悪化、突き上げ感も酷かったという。また、延長ショックはフロントがビルシュタインで、リアはランチョRS9000をセットしている。
タイヤはごついブロックで岩山もガンガン登っていけるスペックを持つマキシスタイヤ(37×13.50R15)をセットし、ホイールはミッキートンプソン・アルコアクラシックをチョイスした。
このタイヤ&ホイールの組み合わせにもオーナーのセンスの良さを感じる。ともにアメリカンオフロードで存在感を示すメーカーの製品を選択し、そしてサイズも17インチではなく15インチにこだわる組み合わせが素晴らしい。当時感という意味では、やはり15インチがベスト、まさに玄人ならではの選択といえるだろう。
外装については他にもハイリフト仕様車を主張するポイントとしてオーバーフェンダーをセット。これも当時物のアクセル製ということだった。また、ルーフにはキャリアをセットしてRV車のなんたるかを主張。そのままではお飾りになるので、リアハッチにラダーを取り付けている。
12インチリフトアップによって全体の車高はかなり高くなっている。さぞ乗り降りはしにくいと思うが、戸枝さんいわく「使っていくうちに自然と慣れるもんだよ」とのこと。そんなことよりも、運転席から見える景色は素晴らしく、また、人の視線も感じて目立てる点が何よりも魅力的だと話してくれた。
* * *
信号待ちの際に、戸枝さんのデリカが後ろに止まったら、普通の人ならまず間違いなく驚くだろう。本人は本場のモンスタートラックと比べたらまだまだというが、我々から見れば間違いなくモンスタートラック改めモンスターミニバンといえる出来栄えだ。