売れ線のコンパクトSUV「XV」が「クロストレック」に改名
もともとは「インプレッサ」の派生モデルとして誕生したスバル「XV」だったが、いまや本家インプレッサを凌ぐ販売台数を稼ぐまでに成長していたなか、インプレッサより先にモデルチェンジを発表し発売されることになった。
車名も、初代の「インプレッサXV」から、2代目ではインプレッサの名が外されてXVに、そしてこの4代目では海外向けに使われていた「クロストレック」に統一されることになった。米国では、つい先日に2023年発売予定の次期型インプレッサが一部公開されたが、そこから見る限り、このクロストレックもまた車体の大半はインプレッサと共用であることは明白。それでいながら違う車種として認識してもらえるまでに育て上げてきたのは、スバルの戦略の巧みさだ。
スバルのお家芸AWDだけでなくFWDモデルも用意
ちょっとしたトピックは、スバルといえばAWD、ましてXVなら黙ってAWDみたいなイメージがあった中で、XV後継モデルのクロストレックには、なんと2WD(FF)を設定してきた点にある。スバルではAWDに対して2WD版はFWDと呼ぶ。
その理由を推測するに、XVに設定されていた1.6L直噴ガソリン仕様が無くなり、クロストレックのエンジンは2L直噴ガソリンにモーターアシストを備えたe-BOXERの1種に絞られたことで、エントリー価格が高くなってしまうことがあるのではないかと思う。元来、XVは内容に対して車両価格が割安な印象を与えていただけに、販売側にとっては、とっつきにくい価格となることはできるだけ避けたいだろう。
勝手な想像ではあるが、本音としてスバルの開発陣があえてFWDの追加を望むとは考えにくいので、ここは営業サイドに押し切られた感が強い。実際、この点を開発陣に尋ねた際には、どうにも歯切れが悪かった。
サイズや外観はほぼ同じながら室内は大きく進化
ちなみに、この試乗は2022年9月の発表前だったので、クローズドコースでプロトタイプによるもの。しかも、当日は大雨であったが、それだけにAWDとFWDの差も、ドライ路面より分かりやすい利点もある。
新型クロストレックの成り立ちは、先代で新採用されたSGP(スバルグローバルプラットフォーム)を踏襲しているが、最新版たる新型「レヴォーグ」のものを基本としている。もっとも、ホイールベースも先代と同一であるに留まらず、全長は4480mmでマイナス5mm、全幅は変わらず1800mm、全高はXVのアンテナの有無による違いを含めてマイナス15mm~プラス5mmの1580mm。実質的にはサイズはまったく変わっていない。
フォルムも、光による車体の陰影やプレスライン、ディテールが鮮明ではない大雨の中では、用意されていた先代モデルたるXVとクロストレックの違いが、フロントまわりを見ないとすぐには判別できなかったほどで、それだけXVのデザインが好評だったということでもあるのだろう。
一方で室内の印象は大きく変わり、レヴォーグから採用された、インパネセンター部の縦型の11.6インチのタッチパネルディスプレイがデーンと構えており、最新のクルマ感を醸し出している。実際の走行時の使い勝手には賛否あるし、XVのほうが独立して種々の情報を同時に表示できた感はあるが、電子プラットフォームの刷新および共用化、スマートフォンとの連携機能強化などを避けて通れないなかで、先行して採用された新型レヴォーグなどで知る限り、比較的すぐに使いこなせる操作性を備えている。
車重アップでも燃費は向上、静音性もアップ
この日、乗りこんですぐに大きな差異を感じたのは、ルーフから響く雨粒の打音がXVよりクロストレックのほうが圧倒的に静かであることだった。動き出す前から「もしかしていいクルマになってる?」と思わせる。聞けば、ルーフの振動による音の収束を早めたということで、狙ったわけではないが、結果として雨粒の音も響きにくくなったとのこと。これも地道な改良の成果である。
XVに対してクロストレックのAWD仕様で比べると車重は60kgの増加となる。搭載する水平対向4気筒2.0L+10kWモーターのe-BOXERエンジンは、スペックで知る限り性能数値はXVのものとまったく変化はない。さらにリニアトロニックと称するCVTのギヤ比も、最終減速も変わらない。
それでいながらWLTCモードにおける燃費は、XVの15.0km/Lに対して15.8km/Lと向上を果たしているということは、エンジン制御およびCVTとの統合制御、さらに走行抵抗の低減などがなされたものと思われる。ちなみに、AWDよりも車重が50kg軽いFWDのWLTCモード燃費は16.4km/となる。
パワートレーンのスペックは不変でも、主として振動騒音低減のための改良が施されており、操縦性にも大きく影響するエンジンマウントも、XVの樹脂マウントからアルミハウジング液体封入式に変更されている。
全般にフラットな路面のクローズドコースで、短い距離、時間での試乗だったため、その環境下で知れたことをお伝えすると、まず音に関しては、タイヤが水を跳ね上げるスプラッシュノイズが、とくにリア側が少し抑えられたように思えたのと、ロードノイズを含め、耳を圧迫するようなこもり音が減っているようには感じた。
操舵フィールはスバル車として一番の出来!?
一方で、新型レヴォーグで「CVTの逆襲」とまでうたった改良版リニアトロニックは、パドルシフトを使ったとしても、そのダイレクト感は、CVTとしては頑張っている、というところに留まる。CVTのメリットである燃費性能とのせめぎ合いではあるが、無いものねだりとして、高効率多段ATがあればと思う。
その点を除けば、全体として好ましい印象で、まず最初に車体がシャッキとした感があって、ボディ剛性の向上は即座に分かり、乗り味に上質さが備わった感をもたらすのだった。
これとともに、ドライバー席のシート自体が車体の揺れに対しての振れが小さくなっている。じつはここは乗り心地にも大きく効くところなのだが、車体とシートフレームの取り付け部の剛性を高めたとのこと。見た目の変化からはなかなか知れない改良点だ。
そして、ステアリングの操舵感にも正確性とスッキリさが得られたことで、走りの質感を劇的に高めている。今回は、電動パワーステアリングに2ピニオンタイプを採用しているが、それは新型レヴォーグでも採用していた。違いは、サプライヤーを日本の日立からドイツのボッシュに変更したこと。
じつは、新型レヴォーグがデビューしてほどなく、電動ステアリングに関して欧州のサプライヤーと交渉しているとの話は漏れ伝え聞いていたが、こういうことだったのか、と納得した。日立は水平対向エンジンとフレームの狭いスペースに押し込むため、スバルのための2ピニオン電動ステアリングを苦労して開発してくれたとも聞いていたのだが、スバルとしては性能面でより上を目指したかったのかもしれない。ここは日本人としては複雑な心境である。それはともかく、水平対向エンジンを搭載するスバル車として一番の操舵フィールを備えてきたと思えた。
鼻先の軽快感ではFWDモデルのセッティングが光る
FWDとAWDモデルとの違いは、前輪接地荷重の軽いFWDのほうがわずかながら操舵力が軽いこと、そして操舵初期の鼻先の動きに軽快さを感じさせることだ。FF専用にセッティングしたステアリングや足まわりとのことだが、それでもウエット路面では、ここがFWDモデルが唯一AWDモデルをしのぐと感じた点であった。
とくにクローズドコースでは、公道に比べてついついアベレージスピードも高まることから、今回のようなウエット路面ではトラクションでも旋回安定性でも、全体としてAWD仕様が大きく勝るのは明白だった。
さらに、XVとクロストレックのAWD同士で比べてみれば、乗り心地の違いこそ、正直、今回の路面ではよくわからなかった。だが、コーナリング姿勢の進入から曲がり始めの素直なロール感、狙ったラインへのトレース性、コーナー脱出時のロールの戻りなどの一連の動きに繋がり感があり、ドライバーの操作を車両がくみ取ってくれるような安心感があった。
ここは、車体剛性の向上だけでなく、サブフレームやサスペンションの取り付け剛性などの向上も効いているのだろう。ちなみに、タイヤにはFALKENのオールシーズンを採用しているが、ウエットでもグリップレベルは不満のないレベルに思え、操舵の手応え感なども、オールシーズンであることを強く意識させるようなシーンには遭遇しなかった。
スノーフレークマークは持たないタイプながら、すべりやすい非舗装路や、とくに非降雪地域のユーザーにとって、冬場の突然の降雪や出先で雪に遭遇した場合などには心強い装備となる。過信は禁物だが、クロストレックのキャラクターには相応しい選択に思う。
安全性能と悪路走破性の進化も見逃せない
もうひとつ、安全面では電動ブレーキブースターを新採用したことで、ペダル踏み込み初期の制動力立ち上がりの遅れ感が劇的に減っているのは記しておきたい。普段は意識しないが、歩行者車自転車の飛び出し、先行車のふいの急減速など、本当に急ブレーキが必要なときに、その差は大きな違いとなる。
安全性能に関しても、アイサイトはステレオカメラを刷新し、国内向けスバル車として初めて広角単眼カメラと組み合わせ、とくに交差点での衝突回避性能を高めたほか、衝突回避にブレーキだけでなく操舵制御を加えるなど、また一歩前進をしている。
動力性能は従来のe-BOXERと変わらず、むしろ車重の増加分不利だし、わずか10kWのモーターアシストでは体感としてその存在感は希薄なのだが、発進補助はもちろん、低負荷時のモーターのみ走行も可能のほか、とくに低ミュー路での駆動力制御には寄与する。さらにX-MODEで、後退時にもモーターアシストが得られるようになったことから、スタック状況からの脱出性も向上しているそうだ。
スバルらしい走りの質の向上で価格上昇分は納得できる
心配していた価格だが、XVの1.6Lモデルが220万円台からだったのに対して、クロストレックではFWDの「ツーリング」で266万2000円から、AWDはその22万円高となる。上級仕様の「リミテッド」はFWDが306万9000円、同様にAWDは22万円高の328万9000円だ。
XVとクロストレックをe-BOXERのAWD同士で比べれば、約1割程度の価格上昇ではあるが、昨今の種々の原価上昇に加えて、安全装備および快適装備の充実があり、スバルらしい走りの質の向上を果たしたとすれば、納得できるところではないだろうか。
現状で語れるのはここまで。実際にデリバリーが開始されるのは早くて2023年2月以降になるようだが、あとはリアルワールドでの試乗を待つばかりである。