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58年前のロータス「エラン」に試乗して分かった「スポーツカーの真髄」とは? 「軽さこそすべて」は本当でした【旧車ソムリエ】

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TEXT: 武田公実(TAKEDA Hiromi)  PHOTO: 神村 聖/Lotus Cars

圧倒的な軽さと卓越したバランスの妙なる調和

 ロータス・エランに乗るのは久方ぶりのことだったが、このクルマは乗るたびに感動を新たにしてくれる。今回の取材にご提供いただいたのは、1965年型のシリーズ2(S2)。数年前にフレームを交換する大規模なレストアを施したのち、現在に至るまでメカニカルコンディションは完調で、まさしくエランの神髄が味わえる1台といえよう。

 1950~60年代、雨後の筍のごとく英国内に数多く勃興しては消えていったバックヤードビルダーのなかで、ロータスは今なお存続しているだけあって、ボディ内外のつくりは当時から比較的まともな部類。それでもFRP製の華奢なボディを壊してしまわないように気を遣いつつ、地を這うような低い着座位置のシートに身を沈める。

 そしていよいよ、1558ccのロータス・ツインカムに火を入れる時がやってきた。

 このエンジンは、1960年代のDOHCにウェーバー製気化器という組み合わせから想像されるより遥かに扱いやすく、始動性も良好。低回転域からクライマックスまで、いかにも4気筒らしい弾けるような快音とともに気持ちよく回りつつ、スムースにトルクを生み出してくる。

 とはいえこのクルマの真骨頂は、やはり当時としては先進的なシャシーのもたらす、シャープなハンドリングにあるというべきだろう。

 クルマが動き出した直後には、意外なほどソフトな乗り心地に驚かされるかもしれないが、速度を上げてゆくにつれてダブルウィッシュボーンの前脚、エリートの「チャップマン・ストラット」からロワーウィッシュボーンで支えるストラットに変更された後脚ともによく動き、ロードホールディングが抜群であることが判ってくる。

 そして適度にシャープなステアリングがもたらす、「ヒラリヒラリ」とした軽快な身のこなし。あるいは「カチカチ」という擬音がピッタリとくる節度感に富んだギヤシフトまで、すべての操作系が繊細ながらピタッと決まるさまは、この時代のスポーツカーの中でも世界最高峰のひとつ……と断言してしまいたくなるのだ。

 そしてエランが身上とするもうひとつの要素、約640kgという圧倒的な軽さも、このクルマの伝説性を実感させてくれる。エンジンのパワーやトルクは、半世紀前の1.6Lゆえに大したものではないものの、車体の軽さはそれを補って余りある。アクセル操作にも、ブレーキ操作にも、そしてステアリング操作にもピピっとレスポンシブに反応してくれる。

 ただしこの卓越したバランス感覚は、例えばタイヤを太くする。あるいは不用意にパワーアップしてしまえば、あっという間に崩れてしまう繊細なものでもあるようだ。

 それゆえに、サーキットではこの繊細なキャラクターが邪魔をして、結果として純レーシングモデルである「ロータス26R」が誕生するに至ったという事実も頷けるのだが、ことロードカーとしてエランS2を見れば、その絶妙なバランスに感心するほかあるまい。

 誰もが認める60’sスポーツカーの金字塔、ロータス・エラン。あらゆるジャンルの乗用車のパワーウォーズが飽和状態となり、スポーツカーの存在意義が問われつつある今こそ、この素晴らしき妙なる調和を再認識すべき、という結論にたどり着いたのである。

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  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 1967年生まれ。かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)で営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、都内のクラシックカー専門店などでの勤務を経て、2001年以降は自動車ライターおよび翻訳者として活動中。また「東京コンクール・デレガンス」「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントでも立ち上げの段階から関与したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム(埼玉県加須市)」では2008年の開館からキュレーションを担当している。
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