旧ソ連は想像の斜め上ゆく奇天烈メカの宝庫だった
かつて東西冷戦時代のソ連に対し「なんだかよくわからないがすごそうなメカがたくさん存在している」という印象を持っていた方も多いのではなかろうか。たとえば西側諸国から「カスピ海の怪物」と呼ばれた巨大な地面効果翼機「エクラノプラン」シリーズ。シベリアの原野に帰還したソユーズ・ロケットの宇宙カプセルを回収するために生まれた、どんな地形でも走破できるスクリュー駆動の水陸両用車「ZIL-2906」。核戦争下の戦場での運用を想定して試作された「オブイェークト279戦車」など、かの地のメカには常軌を逸した奇天烈なものも少なくない。
SF漫画に出てきそうなレトロ・フューチャー感覚たっぷり
「鉄のカーテン」とはよく言ったもので、東西冷戦終結後にはベールに包まれていたそれら数々の「奇天烈メカ」の情報もある程度知られるようになり、模型の題材として取り上げられる機会も多くなったが、ドイツのミニカー・ブランド「オートカルト」が製品化したこちらも、そんな乗り物のひとつだ。まるで手塚治虫の漫画『鉄腕アトム』に出てきそうなこの乗り物は、1960年代初頭に開発された「GAZ-16A」。GAZとは一般にはガズと呼ばれているが、元々はゴーリキー自動車工場(Gorkovsky Avtomobilny Zavod)の略。このGAZ-16Aをひと言で表すならば「自動車とホバークラフトを合体させたもの」と言える。
無機質きわまる車名は共産国の伝統
ソ連時代のクルマは、基本的には全て「国営工場製」であるから、「ヘンリー・フォードの作ったフォード」とか「エンツォ・フェラーリの作ったフェラーリ」とか「本田宗一郎の作ったホンダ」とか、クルマに対してそういったパーソナルな視点は希薄だ。あくまで「ソビエト社会主義共和国連邦・ゴーリキー工場製の乗用車」とか「ソビエト社会主義共和国連邦・チェリヤビンスク工場製の戦車」といった認識が第一で、むしろ「ボルガ」や「チャイカ」、「T-34」といった車名は便宜上のものという印象。このGAZ-16も、プロトタイプということもありとくに情緒的な車名はなく、「ゴーリキー工場製16号」といった感じだろう。