編集部イチのBMWオタクが試乗してみたら……
AMW編集部員がリレー形式で1台のクルマを試乗する「AMWリレーインプレ」の最後を務めるのは、編集長西山。撮影も編集者自らが担当する当企画、学生時代を思い出してカールツァイス プラナー50mmのオールドレンズ一本で撮影に臨んでみました。BMWのエントリーモデルとも言うべき「1シリーズ」のディーゼルモデルは、BMWオーナー歴25年以上の西山にどのように映ったのでしょうか。
選ぶべき「BMW」の3カ条(過去)
かつて、所有するBMWは「直6、FR、MT」であることが望ましかった。というか、最初にBMWの専門誌を立ち上げた1990年代、直4の右ハンドルATだった「Z3」を所有している私に、BMWオーナーの諸先輩方は「BMW専門誌の編集長なのに、そんなのに乗っていてはダメだよ」と忠告してくれたものであった。いわく、エンジンは直6こそがもっともBMWらしく、それをMTで操ることに意義がある、と(FRであることはこの時代当然であった)。もちろんシルキーシックスと呼ばれるには、ディーゼルではダメでガソリンエンジンであることが必須である。当然自然吸気エンジンである。
2022年の年の瀬、私が数日間ともにしたのは、最新の「M8クーペ コンペティション」であり、「118d Play」の2台。どちらも直6ではなく、ましてFRでもMTでもない。118dはディーゼルターボでFF、M8はV8ターボで4WD。もはやかつての“エンスーが選ぶBMWの基準”など、どこにもない。
でも、どちらも数日間試乗してみて感じたのは、「どっちもBMWだなぁ」という至極当たり前のことだった(わかってはいたことですが……)。
ここで場面は、六本木のとある場所で開催されたイタリアンブランド主催の会食のシーンへと移る。かつて在籍していた版元の創業者であるS氏とテーブルを一緒にさせていただいたのだけれども、その席上で、最近自分が感じていることを率直にお伝えした。
「タイカン」がもっとも「356」らしいとは
それは、以前S氏から「趣味のクルマ1台を挙げろと言われれば、ポルシェ356ほどオールマイティなクルマはない」と聞かされていたことを、いま全面的に肯定します、という内容。クラシックカーのイベントやラリー、ひとりでワイディングを走らせて、ガレージで眺めてみて、さらにはメンテナンスのしやすさ、パーツの入手のしやすさ……などなど、わかってはいたけれど、やっぱり356がオールマイティなのだ。しかもたとえどんな最新ポルシェ911が横に並ぼうとも、カレラGTや918スパイダーが隣に来ようとも、マウントを取られることはない。なぜなら、356はポルシェの始まり、始祖であるのだから。これ1台持っていれば、ポルシェコミュニティで肩身の狭い思いは決してすることはない。電子制御される以前のプリミティブなドライビングを味わえるという意味でも、356は最高だ。
もちろんこの原稿の趣旨は、やっぱりBMWよりポルシェだよね……というものではない。なので、BMWファンも安心してもう少しお付き合いしてほしい。
タイカンの現オーナーでもあるS氏によると、不思議とタイカンにこそ356のDNAを強く感じるという。356の末裔といえる911シリーズではなく、EVモデルのタイカンに356らしさが色濃く反映されているというのだ。これはどういうことなのだろうか。
あくまでも推測に過ぎないのだけれども、ポルシェはEVであるタイカンを作るにあたって、ドライビングの味付けを思い切り356に近づけたと考えると答えは簡単だ。さすがEVになってもポルシェだと、既存のカスタマーを納得させるためにあえてそうしたのだろう。ステアリング、アクセル、モーターの出力……その他もろもろ電子制御しているEVならば、かつての名車のテイストに寄せていくことは現代の技術をもってすればさほど難しいことではないように思う。
残念なことに356を運転したことがないため、私の個人的体験によるものではないけれども、両車のオーナーがそう言うのだからそうなのであろう。その場に居合わせたポルシェを所有するモータージャーナリスト氏も同意していたから、タイカンに356テイストが色濃く反映されていることは、まず間違いがないようだ。
そしてドイツ人のやることだから、きっと「356らしさ」のトッピングはやりすぎぐらいにまぶしたはずだ。第二次世界大戦のドイツ軍のトンデモ兵器の例を出すまでもなく、技術開発にあたってやりすぎてしまうのがドイツである。私の場合はタイカンを試乗したことがあるので、いつか356を運転したときに「なんてタイカンっぽいんだろう〜」と思える日が来るかもしれない。
BMWの走りの理念は受け継がれている
さて、前置きが長くなってしまったが、ポルシェ356とタイカンの関係性を今回試乗したBMWに置き換えてみよう。かつて自然吸気直6エンジンから絞り出されるパワーを後輪で受け止め、麗しいステアリングフィールが好まれたBMW。直6のエンジンの回り方も官能的でもあった。きっとそうした従来からのBMWのDNAをM8も118dも受け継ぐべく、「BMWらしさ」がふんだんにトッピングされているに違いない。つまり、そういう味付けに全力でチューニングされているはずだ、BMWもドイツのメーカーであるし……というわけで、M8と118dは自然吸気直6でもFRでもなくとも、やっぱりBMWらしいなぁ、となるのである。そして、自らの目指す走りの哲学をしっかりと受け継いでいるという企業のあり方に、カスタマーは共感しBMWに乗り続けるのである。
とはいえ、通常はフロント0:リア100のFRであるM xDriveを搭載したM8ならばいざしらず、完全なるFFである118dにさえBMWらしさを十分に感じられるのは、感心するしかない。BMWもそこは十分に既存カスタマーでも使用に耐えられる基準を満たしたという判断の上でのFF化であったのだろう。
118dは、現代の318tiなのか?
試乗コースは、M8は大阪までの往復と深夜の首都高速に渋滞の都心部、118dは自宅のある横浜から千葉や埼玉へ毎朝取材の足として使用した。ワインディングなどを試す機会には恵まれなかったが、それぞれの車両を購入する人のメインでの走行シーンは十分に試すことができたと思う。
どちらにも「BMWらしさ」を感じ入ることができたと書いているが、それは2台が同レベルでというわけではない。しっかりと、E36/5 318tiコンパクトとE31 850CSiと同程度の違いがそこにはあった。たとえば高速道路上でのACCのしつけなど、繊細なM8に比べると118dは、少々荒削りに感じられるシーンが何度かあった。インテリアは同じデザインの方向性でも、細部の仕上げは当然ながらM8の方が格上であることは言うまでもないだろう。ましていわんや、エンジンフィールやステアリングフィールにおいてをやである。
M8の試乗車のオプション込みの価格(消費税込・以下同)が2811万3500円であるのに比べ118dは565万1000円と、5倍の差がある。ちなみに、1995年当時の318tiコンパクトの車両価格は295万円、850CSiが1680万円と、やはりこちらも5.7倍の開きがある。しっかりと値段の差とその差による格の違いも、そっくりそのまま受け継がれているあたりも、さすがBMWだなぁと唸らされるのである。
ちなみに、くだんの会食での会話は、当日その場でS氏本人に「それ、今度書く原稿で使わせてもらいますね!」と伝えたので、了承済みです。
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今回の『AMWリレーインプレ BMW118d編』は、2023年1月31日に発売予定の『BMW LIFE』でも読むことができます。