未来へと渡すためにも、できる限り多くの人に見てもらいたい
2021年7月。姫路市内にオープンした「トリノミュージアム」は、新型コロナ禍の真っ最中にあってクルマ好きへのとても明るいニュースとなった。筆者などはあまりに嬉しくなって、友人たちを募ったナイトミュージアム&ディナーツアーを敢行したくらい(また企画したいなぁ。皆さん、次回は実施したら来てみませんか? )。
なんといっても建物から白亜の姫路城が見える。世界遺産が見える自動車ミュージアムなんてそうそうない(はず)。それにしても、ユニークな構造の建物だ。7階建ての元はというと自走式の立体駐車場だった。2022年11月にリニューアルされ、従来の5、6階に加えて4階もミュージアムとし、展示台数も34台から49台へ増えた。
7階と屋上はカフェ&レストラン。バーベキューのできるテラスまであって、当然、そこからの白鷺城は絶景だ。市内でも南西から見る姫路城の勇姿は珍しいらしい。3階まではそのまま施設用のパーキングに流用した。なるほど! の改装である。
中村俊根オーナーは兵庫県でエンターテイメント産業や不動産業などを展開する経営者だ。小さい頃から舶来の映画に親しんで、登場するガイシャに憧れた。長じて大藪春彦の小説に登場したフェラーリ275GTBを知ってから、中村さんの夢は決まった。いつの日か美しいイタリアンカーに乗る! トリノミュージアムというネーミングはもちろん、その夢の原産地というべき街に連なっている。
所有していた駐車場を改装して飲食店とミュージアムに
偶然かどうか。初めてのクルマ、いすゞ 117クーペの原案はイタリアン・カロッツェリアによるものだ。中村さんは以来、仕事に精を出してはいろんなクルマに乗ってきた。20年ほど前にコレクションしようと思い立ち、自宅のガレージを増築したらしい。
これまで100台近く乗ってきた。コレクションを始めてからは、以前に手放したクルマをふたたび苦労して手に入れることもあった。コレクションは50台を越えて、とうとう自宅ガレージには収まりきらなくなった。
なんとかまとめる方法はないものか。それに中村さんには地元に何か違うカタチで貢献したいという思いもあった。そこで思いついたのが、所有していた駐車場を改装して飲食店とミュージアムという新たな業態へとリノベーションすることだった。
ヴィンテージカーは芸術作品だと中村さんは力を込めた。
「私たちは今、一時的に預かっているだけなんですよね。もちろん趣味で集めたものですけれど、いつかは誰かに引き継いでいかなければならないものでもあるのです。そのためにはできるだけ美しい状態で、いつでも走り出せるようにコンディションを維持しておかなければいけない。未来へと渡すためにも、できる限り多くの人に見ていただこうと思うようになったのです」