凍てつく旭川市街で氷上ブレーキ性能の進化を実感
今回は、VRX3で厳冬の北海道での試乗会に参加させてもらったが、その後、さらにスバル「ソルテラ」および「クラウンクロスオーバー」のVRX3装着車で、都内から上越、北陸などへ出かける機会も得られたので、ドライの高速道路やグシャグシャのシャーベット路面、山間部の雪面の下が凍った雪路など、北海道とはまた違った環境での試乗もできた。
北海道での試乗は、まず旭川市内のホテルを起点に旭岳に向かった後、山頂近くにあるホテルを起点に数台の試乗車で、ふもとまでの往復を繰り返すというもの。ちなみに、この旭岳や隣接する十勝岳には、これまで冬の試乗を兼ねての温泉を目的としたドライブに何度も訪れており、旭川からのルートを含めて、スタッドレスタイヤの評価には、テストコース以上に知れることの多い最適なコースだと思えている。
それにしても、北海道の冬の路面環境は厳しい。それこそスタッドレスタイヤの性能が問われるツルツルのアイスバーンが、外に一歩出たら待ち構えている。朝、ホテルから旭岳に向かう際に乗ったのはメルセデス・ベンツ「GLC 4MATIC」で、タイヤサイズは235/55R19。乗り込んだ際の気温は比較的温かくマイナス3℃。夜に雪が軽く降ったが、路面は路肩や中央部を除いてアイスバーンがそのまま見えている状態。まだ日差しが届く前で、極端に滑るという状況ではない。
それでも、交差点手前などの磨きがかけられた路面では、慎重にブレーキペダルに足を載せていかないと、ABS作動領域に入る。こんなときもGLCのブレーキのコントロール感は高く、ABS作動に入るギリギリのところで制動するようなことも可能だ。もちろん、それもVRX3の絶対的なアイスグリップの高さがあってこそ。
郊外へと進んだ頃には、日差しによりアイスバーンの表面が少しづつ溶けて、氷面がテカテカしだすという、スタッドレスタイヤにとっても、グリップを得るのに苦手な状況になってきていた。
こんななかでも、当たり前のようにクルマは多く走っているが、さすがに車間距離を詰めて走るような輩はいない。交差点で停まるにも、はるか手前からゆっくりと減速を開始し、曲がるのも、少し手前からゆっくりとステアリングを切りだしている。これは地元のドライバーにとっては当たりの操作だ。
スタッドレスタイヤの性能を図る指標となっている氷上ブレーキで、定められたテスト条件下において、VRX2比で20%もの制動距離短縮をしたというVRX3だが、さすがにアイス表面がほんのわずかに溶けているような状況や、交差点前のミラーバーン上の路面では、無造作にブレーキペダルに足をのせると容易にABSの作動領域に入ることは珍しくない。ただ、そのABS作動領域となってからも、減速感は思ったよりもしっかり感じられ、とくに停止前の、ググッと減速して停まる感じは、いかにもアイス性能が高い印象をもたらすものだった。
これまでの経験から、VRX2の氷上ブレーキ性能が、当時の他社製品と比べて高いだろうことは確認できていただけに、それよりさらに氷上ブレーキ性能を高めたVRX3でも滑る路面では、きっと周りはもっと慎重になっているのだろう、と想像してしまう。
雪上でも高いグリップ感と信頼感を発揮する
VRX3の進化は、耐摩耗性や氷上ブレーキに加えて、操舵初期の応答性にも感じる。じつはその点に少し不満を覚えたVRXから、VRX2で大きく向上したと思えたのだったが、VRX3ではさらに、滑りやすいアイス路面はもちろん、圧雪路、それに後日試すことができた完全なドライ路面でも、ステアリング切り出しの際、曲がりはじめるまでの遅れ感がより小さくなっていた。これは、トレッド面の剛性向上があり、同時に絶対的なグリップ向上が寄与しているのだろう。
また、VRX3はパターンノイズが小さく、端的に言ってスタッドレスタイヤとしてかなり静かな部類に思えた。ドライ路面の高速道路などの走行でも穏やかな音質で、いわば耳あたりがいいのは、後日のソルテラやクラウンクロスオーバーで、完全なドライ路面での走行でも確認できるものだった。
市内を抜けて、旭岳に向かうワインディングに入ると、路面は朝方に一度除雪がなされた圧雪面に、また雪が積もりだしていて、一部に雪の轍ができていたりする状況だった。気温はふもとでマイナス5℃くらい、旭岳温泉のホテルに着くとマイナス9℃まで下がっていた。
これくらいになると雪面はかなり締まっており、降った直後の雪はさらさらとした状態だ。こういう路面では、トレッドの溝面積を減らしたことで、雪を噛みこんで、その雪と路面の雪をくっつける雪中剪断力が得られにくくなっているのでは、とも思っていたが、そこはパターン解析も進化しているのだろう、新雪でも少し踏み固められたような雪面でも、トラクション、ブレーキとも高いグリップを発揮し、信頼感の高いものだった。
もちろんこのような路面では、SUV用のブリザックDM-V3はさらに高いトラクションやブレーキ性能を得られるわけで、そのかわりにアイス性能ではさすがにその面で世界トップレベルのVRX3には少しばかり劣るということになる。つまり、この性能バランスにおいて、SUVに乗るユーザーの冬季の走行環境、使い方で、どちらを選ぶか、ということになるだろう。
雪道での走りやすさはアウディとスバルが一歩リード
ちなみに、試乗車したのはすべて4WD仕様。GLCのほかにアウディ「Q5」、トヨタ「ハリアー」、トヨタ「ヤリスクロス」で、山頂近くのホテルからふもとまでをそれぞれ1往復できたほか、さらにホテルを起点とした緩やかな勾配でコーナーが連続する片道1kmほどの一般道では、アウディ「A4アバント」、スバル「レヴォーグ」など、SUV以外の車両にも乗ることが出来た。
車両の4WDの機構やそれに伴う駆動特性、さらにESC(横滑り防止装置)やABSの制御特性などによっても、さらにタイヤの接地荷重に大きく影響する車重によっても走り感は異なってくるのに加えて、タイヤサイズの違いでトレッド面のストレートグルーブの数が違うことなどあり、各車で今回のワインディングでも走りやすさに違いは現れていた。
印象としてSUVではとくにアウディQ5クワトロが、それ以外ではアウディA4アバントクワトロ、それにスバル レヴォーグの3車が、いわゆる意のままの操縦感、走りやすさ、ブレーキコントロール性などにおいて一歩リードの感があり、今回においては、トヨタ ハリアーは、ABS制御において過度に減速度が抜けてしまうようなことも経験され、それとともに舵の効きが鈍るなど、車両性能の差を感じることにもなった。
小兵ながらも雪道で意外と頼もしかった「ヤリスクロス」
また、ヤリスクロスは小さい出力のモーターで後輪を駆動しているわりに、発進域や40km/hくらいまでの駆動力をうまく与えている反面、それ以上の領域では、登坂路面で駆動力不足をもたらすなど、同じ走行環境下、同じタイヤ銘柄での差を知ることができたのも収穫であった。
タイヤの単位面積あたりの接地荷重の点から、細めのタイヤのほうが雪路のグリップでは有利になることもあり、ヤリスクロスが車重は軽めではある。だが、タイヤが今回の試乗車のなかでは最も細い(205/65R16)こともあって、軽快な操縦性と、崩れてザクザクとしたような雪路面での安定性においても好ましい印象を残した。
その一方、橋の上など路面が下側からも冷やされるような環境では、雪路面のすぐ下が完全なアイスバーンになっていたりして、とくにコーナリングしながら途中から橋にかかるような場合、グリップの減少が大きく、時にアウト側に膨らんでしまう挙動にもなりがちだ。ここでは車重が重く、相応に太いタイヤサイズのアウディQ5などは、軽く雪がのった圧接面から、急にアイスバーンに接することになった際のグリップの減少感が小さいなど、同じVRX3でも、車重とタイヤサイズによっても印象が異なることも実感できた。
一方、上越などのように水分を多く含んだ雪質で、それがシャーベット状になった際の安定性においては、溝面積を減らしながらも、トレッド面からうまく排雪をしているようで、危惧していた雪にのっかっていってしまうような動きは、21インチという大径サイズのクラウンクロスオーバーでも、比較的抑えられていることを確認できている。同時に雪が溶け水が溜まったようなウエット路面でも、排水をうまくこなしていると思えた。
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VRXとして3代目のVRX3は、VRX2でも定評のあったアイス性能をさらに高めながら、相反する性能をむしろ向上させた「ブリザック史上最高性能」とのうたい文句を納得させる製品であることは、新設定のSUV専用サイズでも再確認できた。SUVを乗用車ライクに使うユーザーにとって、高性能スタッドレスタイヤの新たな選択肢が生まれたことは喜ばしいことだと思う。