「働く」だけでない「遊ぶ」軽トラック
軽トラックはニッポン独自の規格で、「働くクルマ」として生まれた。荷台に物を積む・運ぶ・降ろす、という基本的な運搬の作業を行なうためのコンパクトな乗り物。そのため、ベース車は小型・低価格で質素な装備・仕様が当然である。
しかし、そんな軽トラックが近年注目され、芸能人もこぞってリメイクカーを作り、その製作過程を楽しむようになったことから市場が大きく変わっているようだ。他人とは違った愛車に仕上げたい、仕事だけでなく趣味にも使いたいといったユーザーが増え、今や軽トラックは「働くクルマ」から「遊びを楽しむクルマ」へと進化を遂げたのである。
趣味の部屋が移動できたら……
東京オートサロン2023にもユニークな発想でカスタムされた軽トラックが数多く登場した。その中でもとくに注目を集めた1台が、荷台に多趣味な男の隠れ家となる部屋を載せたスズキDA63T「キャリイ」だった。
誰もが憧れる趣味だけ部屋、それが移動式で楽しめたら面白い! そうしたコンセプトで製作したのが、福島県にある国際情報工科自動車大学校に通う生徒たち8名が手がけた軽トラック「キャリイ」ベースの「ムーヴガレージスタイル」だ。
そもそも軽トラックの荷台はとても狭い。箱型のボックススタイルにするにしても標準寸法のままではガレージ感を出すことが難しい。そこで考えたのが荷台を延長させ、重量が増すであろう車体をしっかり支えるために6輪仕様の軽トラックを作ってしまう計画だった。
世にカスタム軽トラは数あれど、6輪タイヤの軽トラが放つインパクトはやはり別格で圧巻の一言。大胆なカスタムと技術について生徒に聞いてみた。
「ベース車両のスズキ・キャリイトラックを延長させるストレッチスタイルを作り出すため、リアフレームを50cm延長しました。そして、その延長分だけ荷台を載せる骨格を作り出しました。そして、新たに追加する2輪は、延長したフレームにキャリー用のホーシングを二軸加工で取り付けて6輪化を実現しました。車体の加工を終えたところで、専用のボックスを鉄板で製作し、その中を乗り物好きの趣味の空間となる作り込みを施しました。ギターやバイク、クルマの部品などを置いてアソビ心を表現しています」と話してくれた。
スライドした荷台でスペースは2倍に
実際の作業は困難の連続で、荷台の切り出し、フレームの延長から、寸法がぴったり合うアクスルやホーシングの加工、さらにマウント位置の調整まで考えると、形になるまでの苦労が絶えなかったことは容易に想像がつく。だが、その甲斐あって、6輪仕様のストレッチ軽トラは普通のカスタムカーとは一線を画す出来ばえとなり、かなり目立っていた。
しかも搭載している荷台はスライド機構を持っているので、停車時にこれを展開すれば、限られた荷台スペースがほぼ倍の広さになり、ゆったりとした空間の中で過ごせる。このアイデアも素晴らしい。
外装はスポーティなルックスで、装着しているパーツは「Kブレイク・プラチナム製エアロキット」に、ホイールは「ワークEQUIP 03」×6輪の組み合わせ。サスペンションは「MH23S用車高調キット」だが、今回のボディに合わせた加工を施している。そして、ボディカラーはランボルギーニ「アヴェンタドール」のオレンジを使って目立つように演出した。
今回の製作について、一番苦労した点を聞くと、荷台にセットしたボックスを鉄板で作ってしまったのが誤算だったそうだ。アルミではなく鉄板にしたことで重たくなり、そのぶんスライド機構を動かすのが大変になってしまったとのこと。
また、重量も増したので、サスペンションにかかる負担が大きくなり、その対策やボディ補強が必要になったことも余計な手間だったという。最初からアルミにすれば、もう少し楽に完成することができたかもと製作過程での後悔と苦労を教えてくれた。
【AMWのミカタ】
それにしても、学生の発想は面白い。自分の好きな物、趣味を全部クルマに詰め込み、そのまま外に遊びに行く。そして好きな場所にクルマを停めて趣味の時間を満喫する。まさしくクルマを通して豊かな気持ちになれる瞬間だ。国際情報工科自動車大学校の生徒たちは、われわれにそうした自由で面白いカスタムカーを披露してくれたと思う。