世界で最も有名な軍用モーターサイクル、BMW R75
ご存知の通りBMWといえばわが国のホンダやスズキと同様、2輪と4輪の両方を生産する世界的に見ても数少ないメーカーだ。そして、BMWの本職はもともと航空機エンジンの製造。その技術とノウハウは好むと好まざるとに関わらず、戦時下には優れた軍事技術としても重宝されることとなる。第二次世界大戦時のBMWもまた、まさにそういった存在であった。
バイエルンのエンジン工場がドイツ軍のために開発
軍の偵察や連絡の用途に、それまでは民生用のオートバイを流用していた第二次世界大戦初期のドイツ軍であったが、やはり当時の350~500cc級の市販オートバイでは、戦場という特殊な条件下で使うには荷が重すぎる。そこで新たに開発されたのがBMW「R75」である。エンジンは排気量745ccのOHVで最高出力は26ps/4000rpm。空冷水平対向2気筒エンジンにシャフトドライブという構成は、歴代BMWモーターサイクルの代名詞ともいえる「Rシリーズ」のフォーマットに準ずるが、このR75はあらゆる部分においてミリタリー・ユースを前提にした設計となっている。
4×4ならぬ3×2のパートタイム2輪駆動
1941年から生産が始まったR75はもちろん単車としても使用されたが、本車が「世界で最も有名な軍用モーターサイクル」と言われるのは、やはりサイドカー仕様の存在であろう。R75サイドカーはシャフトドライブの特性を活かし、必要に応じて後輪の動力を舟側の車輪にも伝達できるという、4×4ならぬ3×2のパートタイム2輪駆動車なのだ。
また、燃料タンク上部に設置されたエアクリーナーと、高い位置に取り付けられたアップマフラーにより、かなりの水深まで走行可能。トランスミッションは4速+副変速機付きで、さらにリバースギヤまで備えていた。サイドカー仕様の車重は400kg以上とも言われる重量級だが、最高速度は95km/hを誇った。ブレーキはBMWモーターサイクル初の油圧ブレーキが採用されている。16インチのホイールには悪路の走行を前提としたブロックパターンのタイヤが装着され、通常のモーターサイクルでは走行が困難な路面状況でも走破できるタフなR75は、前線の将兵から好評をもって迎え入れられた。
ミニチュアモデル業界でも人気はメジャー級
そんな有名なBMW R75サイドカーは、ミニチュアモデルの素材としてもメジャー級だ。タミヤ1/35MMシリーズやエッシーの1/9プラモデルなどは古くからの模型ファンにとってはお馴染みの存在だが、今回ご紹介しているのはドイツの老舗玩具・模型メーカー「シュコー」の1/10スケールのミニカー。こちらはライトブラウンに塗装された北アフリカ戦線仕様だが、ほかにバリエーションとしてシュバルツグラウ(黒っぽいグレー)塗装の欧州戦線仕様のモデルもある。車体に満載されたジェリ缶や飲料水のボトル、スペアタイヤに機銃架などがその用途の過酷さを物語る。
じつはコピー製品の一部は今でも現役
終戦までに約1万8000台が生産されたと言われるBMW R75は、ヨーロッパ全土はもとより遠くソ連から北アフリカまで、あらゆる戦場で使用された。ちなみに戦時中に東部戦線でBMW R75を鹵獲(ろかく)したソ連軍は戦後、これをコピーした「ウラル」、ウクライナでは「ドニエプル」、さらにそのウラル/ドニエプルをベースに中国で「長江」が作られ、それらは一部でいまだ現役だ。
戦時中にドイツで開発されたさまざまな「兵器」が、戦後の東西両陣営に渡ってそれぞれ独自の進化を遂げていくのはこのBMW R75に限った話ではなく、小火器からロケット(ミサイル)まで多岐にわたるが、それはまた別の物語である。