日本自動車大学校の生徒たちの力作
東京オートサロンで話題を提供してくれる日本自動車大学校(NATS)ブースに、驚きのスーパーマシンが登場した。テーマは「GTマシンを公道走行可能なマシンへ」。ベース車としてトヨタ「86」(ZN6)を使い、東京オートサロン2022においてトヨタGRが発表した「GR GT3コンセプト」をオマージュして製作。その名も「NATS GR STANCE」として披露された。
手作業で叩いて作り出したボディ
製作は、レーシングカー好きなNATSの生徒7名が集まって行われた。GTマシンならではのレーシーな仕上げを見事に表現しつつ、改造車として、ただならぬ雰囲気を持たせるカスタムの出来栄えに注目が集まった。
このエアロダイナミクスボディを構成するパーツは、FRPかと思きや、実はすべてアルミと鉄板で作られていた。平たい板から各セクションごとにデザインしたイラストを元に、生徒達が手作業で叩き、引っ張り、曲げながら寸法を合わせて製作。ボディの芯となる鉄製アングルを無数に立て、その上から覆う形で成形したパネルを溶接する手法によって抜群のレーシングフォルムを作り上げた。
生徒のひとりは、製作に関して次のように語ってくれた。
「GR GT3コンセプトを目指すという点から、作るべきデザインも必要になるパーツもはっきり見えていて、その部分に関しては迷いはありませんでした。ただ、実際にその雰囲気を出すためのパーツ製作が大変で、ひとつのパーツを生み出すのに時間もかかり、たくさん苦労しました。
また、どうしてもロングノーズ化させないとGTマシン風の見えなかったので、大幅なボディ加工も施しました。理想は実際のGTマシンに近づけるためにフロントミッドにエンジンを載せたいと考えましたが、ステアリングラックに繋がるシャフトの問題等があり、それは現実的に不可能だと判断して諦めました。
でも、ロングノーズ化はGTマシンらしいフォルムを作り出す点からも絶対に必要だったので、バルクヘッド以降のフロントセクションをパイプフレーム化させることでノーズを延長。それに伴って、ステアリングラック、トランスミッションケース、プロペラシャフトも延長し、さらに配管やハーネス類も延長させました」
フロントを350mm延長
サスペンションの配置&レイアウトについては、トヨタ86純正をそのまま使っている。基本的にパイプフレーム化といってもバルクヘッド以降の350mmのみなので、切断したボディを延長したパイプフレームに再び連結し、サスペンションメンバー、各アーム類は純正をそのまま活用する形とした。
そのため、足回りのパーツは市販品を装着。サスキットはTディメンド製アームにエアフォース製エアサスキットを組み合わせた。ストラットタワーバーは、フロントフレームに連結する形で組み、パイプフレームとジョイントさせることでより剛性を高める工夫を凝らしている。
一方、エンジンについては、トラスト製T518Zボルトオンターボキットを装着している。また、マフラーもトラスト製だが、通常モデルにひと工夫加え、テールタイコ下部に入っているGReddyロゴが車両の後ろから見えるようにテールエンドパイプとタイコを切断し、90度回転させて再び溶接、元に戻す作業を行った。そして、バンパーにネットを取り付け、GReddyロゴがより目立つストリートチューンのマシンであることをアピールしている。
様々な工夫が詰まっている「NATS GR STANCE」は、その造形──GTカーとして表現する過激なフォルムも素晴らしいが、何よりも印象的なのがフロントフェイスの作り込みにある。これも生徒達がアイデアを出し合って決めたもので、MIRAIの純正ヘッドライトを流用して製作。フェンダーやボンネット、フロントバンパーの形状は、このヘッドライトに合わせて加工し、GR GT3コンセプトに近づける仕上げとした。また、リアについては80ハリアーの社外テールランプを使っている。
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生徒たちが、公道走行可能なGTカーとして本気で取り組み完成させた「NATS GR STANCE」。このクルマは、形だけのいわゆるハリボテカーではない。それを証明するために、このあと2023年3月には実際に公道を走るテストランキャラバンも予定している。コースは日本自動車大学校(NATS)から伊豆までは高速を使い、一般道のワインディングを走るルート。NATS学生達が思い描いて完成させた夢の公道仕様のレーシングカー、その走る姿をぜひとも見たいものである。