ジャガー最強のスポーツSUVでフェリーに乗って北海道ひとり旅
近年、長距離フェリーの新航路や新造船が増えてきているのをご存知だろうか。直近では、長距離フェリーに多くの航路をもつ商船三井グループの「さんふらわあ」が、大阪~別府航路用に日本初となるLNG燃料の新造船を2023年1月13日より就航開始、4月には同航路でもう1隻が就航予定である。
5リッターV8スーパーチャージャーの超弩級ガソリンエンジン
こんな話から始めたのは、ライフワークでもある長距離試乗にかこつけて、これまでもフェリーを利用しつつ、遠方での試乗を毎年行ってきている……と言うともっともらしいが、旅、温泉好きの私にとって、試乗を兼ねて遠方に出かけるのには、それこそ一石二鳥で、よく利用させてもらっているから。
今回、北海道へのフェリー旅、いやジャガー「FペイスSVRジャパンSVエディション」の試乗に出かけたのは2022年9月のこと。「SVR」とは聞き慣れないかもしれないが、ありていに言えば、メルセデス・ベンツの「AMG」、BMWの「M」のような、ジャガー・ランドローバーをハイパフォーマンス化したり、内外装のオーダーメイド化などを担当する部署であるSVOが制作したパフォーマンスの頂点にある仕様に与えられている。
エンジンは、絶滅危惧種とでもいうべきV8 5Lをスーパーチャージャーで過給する純内燃機関で、最高出力550ps、最大トルク700Nmを発生。2t超えの車重をして、0-100km/h加速は4秒フラット、最高速度286km/hという超弩級のパフォーマンスを発揮する。
スポーティでありつつ本格オフロード性能も兼ね備える
こんな超高性能SUVに燃費性能を求めるのは筋違いだが、今回の旅は目的地を道東としたこともあり、ならば経費の面からも、北海道まで出向くのに青森まで陸路~フェリーで函館~そこから道東に向かうよりは、茨城県・大洗からフェリーを使って苫小牧に渡ってしまおうと考えたのだった。それでも、旅の前後日の走行などと合わせて、1500kmを越える試乗が叶うことになった。
ジャガーのSUVの特徴は、全般にスポーツ性の高さに振られた性格でありながらも、この種では珍しい最大渡河水深を設定、公表している点にもある。つまり見た目や速さだけを誇るSUVではなく、イザという際の機能もしっかりと追求されている。
そのFペイスの最大渡河水深は約500mm(正式には526mmと発表)である。河を渡るような行為は非現実的だとしても、大雨をともなう台風などへの遭遇時や、近年頻発しているゲリラ豪雨時など、急激に冠水した道路を走行せざるを得ないような際でも安心感、信頼感が違う。
参考までに、ランドローバーでSVRモデルの設定があった先代「レンジローバースポーツ」の最大渡河水深は800mm、さらに新型レンジローバースポーツでは900mmとなっており、ジャガーのSUVとの要求レベルの違いは、きっちり盛り込まれている。
大洗から苫小牧までのフェリーはキャンペーン割引でオトクに利用
大洗港から乗船する往路のフェリーは「さんふらわあ さっぽろ」。このさんふらわあで嬉しいのは、ひとり旅でも、広く快適なツインルーム(バスもトイレも備わる)を1名分の料金で利用できるキャンペーン期間が設けられていることで、今回もそれを利用させてもらった。
大洗港の出航は19時45分だが、2時間前までの搭乗受け付けを基本としているので、実際のところの所要時間は苫小牧港までの航行時間の約18時間に加えて、搭乗受け付けから車両の搭載、そして降船に要する時間までを含めるとプラス2時間半は必要となる。
さらに出発地から大洗港までの移動時間も加るが、都内から青森まで走ってフェリーで函館に渡って道東方面に向かう所要時間と比べてみるならば、それほど差はない。まして、冬にクルマでの移動となれば、東北から北は降雪の場合も珍しくないので、平均車速も落ちる。そう考えると冬のほうがよりありがたみを感じるかもしれない。
参考までに今回の料金は、季節や夏休み期間などによるA期間からE期間まで設定されている中での下から2番目に料金の低いB期間の乗船で、車両運賃が片道3万1800円(全長5m未満)、旅客運賃はシングルプレミアム(設定無しの場合もあり)で片道1万5000円が正規料金なのだが、キャンペーン中で2割引だったため割安に利用できた感じである。
徹底的に気持ちよいジャガー流儀のハンドリング
揺れをほとんど感じることもなく快適な船旅を過ごした後、苫小牧港からまず向かったのはえりも岬。地図で見ると苫小牧からは近いようにも見えるが、約180kmの距離だ。ここは、N1耐久レース(現在のスーパー耐久)に参戦していた頃、十勝インターナショナルスピードウェイ(現十勝スピードウェイ)で開催の十勝24時間レースの合間をみて行って以来だから、20数年ぶりにもなる。夕陽が沈むまでにはたどり着きたい。
あの頃は日産「スカイラインGT-R」でも最高出力は280psに自主規制していた時代。水冷化されたポルシェ「911」も、ターボでさえも420psといったところだった。よもや、こんな最高出力550ps、最大トルクに至っては700Nmなどという市販車が、それも高い実用性や使い勝手を備えるかたちで多く生まれてくることなど想像もできなかった。
ただ、純内燃機関によるパワートレーンの時代は、もう先が見えてきている。欧州ではプレミアムブランドを筆頭にEVを続々と投入する一方で、絶滅危惧種たる大排気量超高性能エンジン搭載車を送り出してきているのは、それこそ最後のあがき……なのだろうか。
Fペイス自体は発売から6年を経て、とくに2020年末の改良で熟成の域に達しつつあったが、そうした中でも、SVRはサスペンションからブレーキ系、ステアリング系など細部に至るチューニングが施されている。
SVRに限らずジャガーに共通していると思えるのは、曲がる=ハンドリング性能へのこだわりの強さ。Fペイスは全車AWDだが、日常域ではほぼ後輪駆動に制御される。もちろん必要に応じて瞬時に前輪へ駆動トルクを伝えるが、コーナリングにおいては、アンダーステアを徹底して嫌っているかのごとく、気持ちよく狙ったラインを通していく。
この性能は、えりも岬に近づいてきて、ようやく遭遇するゆるやかな屈曲路で、意のまま感として伝わる。車重は2.1tもあるので軽快感とはまた違うが、ジャガーらしい手応えがなめらかでありながら、しっかり感とリニアリティを備えたステアフィールとともに、正確に狙い通りに曲がってくれるのだった。
超高性能ガソリンエンジンの官能性はやはり捨てがたい
えりも岬には、なんとか日没前に到着できたが、この時点での、メーターに表示されていた平均燃費は11.4km/L.。都内から大洗港に向かう高速も、そしてえりも岬に向かう日高自動車道も、その先の一般道も淡々と走らせていたこともあるが、5L V8スーパーチャージャーの550psエンジンに2.1tの車体、強烈に太いタイヤ等からすれば、思いのほかの好燃費で、ひとまずホッとした。
えりも岬から140kmほど北上した幕別温泉に泊まり、2日目は、まず上士幌にある日本一広い公共牧場のナイタイ高原牧場に向かう。この牧場内に2019年6月にオープンした一面ガラス張りの展望カフェ、ナイタイテラスには、一度行きたいと思っていた。
訪れた時期はまだ草木の緑も濃く、左右に広がる牧草地をかき分けるように登っていくワインディングは爽快だ。5Lにスーパーチャージャーで過給するエンジンがもたらすトルクは強大で、気を抜くと速度が上がり過ぎてしまうので、どれだけアクセルを踏むのを我慢しておくか、といった感じすらある。
もっとも、その面だけで言うならば、最近のプレミアムブランドの上級EVには、瞬時に800Nmを超える最大トルクを発生するものもあるが、エンジンサウンドとともにトルクが盛り上がる高性能内燃機関の感覚は、官能性としてやはり捨てがたい。
ちょうどお昼どきだったが、ほぼ待ちはなくナイタイテラスの席を確保でき、ハンバーガーやポテトを注文。ガラス越しの眺めの素晴らしさで美味しさも増すというもの。
ナイタイテラスの駐車場脇には、いまどきとも言える「映え」のする撮影スポットとして、クルマ1台が置けるスペースがそこだけ四角く舗装を変えて用意されており、撮影待ちのクルマやバイクも並んでいたりした。
何年も放置されているマツダ・サバンナスポーツワゴンに再会
この日は阿寒湖畔の温泉宿に泊まる予定だったが、じつは行ってみたかったのは阿寒国立公園の最西端にある、周囲がたった2.5kmしかない湖、オンネトーであった。カヌーなども禁止されているので、自然そのままの姿が見られる神秘的な湖である。この日の湖面に雌阿寒岳と阿寒富士を綺麗に映していた。
ここは住所としては足寄町になるが、オンネトーの手前で、足寄町の道の駅「あしょろ銀河ホール21」に立ち寄る。ここ数年の間、ほぼ毎年に一度はここに寄る機会があったが、もう何年にもわたって、なぜか駐車場の真ん中付近に、マツダ「サバンナスポーツワゴン」の廃車が置かれたままで、見るたびに外も中も朽ちてきているので、どうにも忍びない。
この車両は、AP(排ガス規制対応車)なので1973年から75年式といったところだろうか。もう1台、サバンナの横に置かれた日産「シビリアン」とともにもの悲しげである。
まりもで有名な阿寒湖は数年ぶりだったが、以前の記憶よりも透明度も高く綺麗な湖になっているようにも思えた。しかし、今回もっとも印象に残ったのは、地元の方も滅多にないと言う、雲ひとつない摩周湖にお目にかかれたこと。これまで何度か訪れてはいるが、それでも展望台の階段を上り湖が見えたときには、感動! であった。この時期は木々も深い緑で、そのコントラストも見事だ。
見た目ゴツいタイヤとバケット形状シートは意外に優しい
ちなみに、都内からの移動を含め、2回目に給油した足寄町までの走行距離は約570km。のんびりと移動しているので、それほど距離は伸びていない。メーター上の燃費表示は10.8km/Lとなかなかじゃないか、と思っていたが、実燃費では10km/Lだった。それでもなんとか2桁に乗っている燃費は立派じゃないだろうか。
3日目は釧路市内に泊まり、釧路が発祥の地という炉端で夕食を。翌朝は釧路湿原周辺をひと周りして、帯広の豚丼を食べに向かう。帯広にも何度か訪れているので、有名豚丼店はいくつか行っていたが、今回初めて行ったお店の豚丼は絶品であった。いわゆる超有名店ではなかったのだが、ちょっとしたハズしの選択が大当たりした時の喜びはひとしおだ。
その後は途中、夕張に寄って、一路、苫小牧のフェリーターミナルへ。旅の中でいえばリエゾン区間のようなものだが、こういうリラックス時には、乗り心地やシートの着座感などがすごく気になってくるものだ。
見た目にタダモノではない雰囲気を漂わすホイールとタイヤは22インチで、前265/40、後295/35というファットなサイズだが、このピレリPゼロは、踏面からの当たりが感が優しいこともあり、細かい路面の荒れに対しては意外にも包み込む感じだ。
なによりも、見た目にはいかにもバリバリのスポーツモデルです的なバケット形状のシートがいい具合に身体を包み込み、見た目から想像するのとは違い、優しいタッチかつ自然な感覚で身体をホールドしてくれる。
このおかげで、長時間のドライブでも、臀部のどこかが痺れるような感覚になったりすることなく快適に座り続けていられる。ちなみに、後席までも左右バケット形状だ。
大洗に向かう復路の苫小牧港「さんふらわあ ふらの」は18時45分発。往路と同じくシングルプレミアムのツインルームでゆったりと過ごしながら帰路を過ごした。
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今回のような、シリーズの頂点に立つハイパフォーマンスモデルでの長距離移動の機会は少ないが、FペイスのようなSUVの場合、居住性、ラゲッジスペースなどの実用性と日常性を高く得たうえでの、ゆとりを越えた官能性の高さは、移動の時間を豊かにしてくれることを改めて実感した。燃費も悲観していたほど悪くなかったことは発見であったし、より現実的なことを言えば、予算が少しばかり浮くことにもなったのだった。