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アンチ日産「スカイラインGT-R」のチューナーが出会った運命のR32とゼロヨン人生

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TEXT: 増田髙志  PHOTO: GT-R Magazine編集部

サーキットに力を入れだしGT-Rの凄味を知る

 GT-Rを手に入れたのは29歳。ずっとゼロヨンばかりだったが、サーキットにも目を向けるようになったことがきっかけだ。R33から始まってR34は3台乗り継いだ。

「周回(サーキット走行)ではハイパワーの4駆が断然有利なもので、GT-Rでサーキットを追求していきました」

 お店のサーキット色がますます深くなっていったころ、ふとR34ユーザーがやってきてゼロヨン仕様のオーダーを受けた。

「私が昔、ゼロヨンに夢中だったことを知っていて、一緒に走りましょう、というお誘いも含めた相談だったんです。忘れかけていた大切なことに気付かせてくれました」

 久々に本気でゼロヨンに挑むことを決意した千葉代表はそのとき39歳。今から12年前の出来事だ。ユーザーのR34とは別に、自分用にもゼロヨン仕様のクルマを仕立てた。ベース車両はR32だ。

「アンチGT-Rと言っておきながらサーキット仕様を作っていたときに、すごさを実感していましたから。なかでも一番軽いR32に決めました」

 チューニングに関しては酸いも甘いも経験済みの千葉代表は、決めた予算内でのクルマ作りを徹底した。そうしないと際限なくエスカレートし、楽しみよりも苦労ばかりが多くなることが明白だからだ。R32はあくまで自分の趣味として取り組む。必然的に費用のかからないシングルターボで攻めた。HKS T51R KAIに組み合わせたカムはIN/EX共にHKSの280度。排気量はそのままでピストンとコンロッドを東名パワードに変更。ヘッドは今までのノウハウを惜しみなく導入する。インジェクターは1000ccを採用しHKSのVプロで制御。そしてHKSのドグミッションをセットする。これでブースト2kg/cm2で約700psという仕様が完成。8500rpmまで淀みなく回る痛快な味付けだ。

 このレベルのパワーだとエンジンやトランスミッションのトラブルも起こらずに手間が掛からない。予算をしっかり決めていたため、コストパフォーマンスに長けた無駄のないチューニングメニューが構築できた。

久々のゼロヨンで確かな相棒になったR32GT-R

「およそ10年ぶりのドラッグコースでしたがブランクは少しも感じずに、やる気だけが漲りました。ツリーを見ていると不思議と何もかも忘れて集中できるんです」

 ドラッグレースは直線を疾走する単純な競技に思えるが、現実はなかなか奥が深い。決められた区間でタイヤを空転させて温める儀式や、間髪入れずに行うシフトチェンジなど、シンプルだからこそ誤魔化しが効かずに力の差が露骨に現れる。とくにスタート時は顕著だ。シグナルの一番上にあるプレステージランプを対戦相手とどちらが先に点けるかが非常に重要になってくる。

「この駆け引きが勝負に大きく影響します。最初に点けるか後からかは好みがありますが、私は最初に点けて自分のペースに持っていきます。先手必勝ですね」

 そんな間合いもこのR32ではよく決まる。単純な馬力だけではクルマの価値は判断できない。最終的には相性がモノを言う。とにかくこのR32GT-Rは千葉代表の手足のように動いてくれるという頼もしさを持ち合わせている。

「コンスタントに9秒5~6が出て大満足。身体がスタートやシフトチェンジのタイミングを覚えているんですね。それを確認させてくれたR32は自分にとって特別な存在。アンチGT-Rは正式に返上です」 

ゼロヨンが自分の原点と感じさせる大切な一台

 峠からサーキットにステップアップするレーシングドライバーのように、仙台新港のゼロヨンからドラッグレースへと進出していった千葉代表。ゼロヨンが自分の原点だということをR32が再確認させてくれた。

「ストリートゼロヨンの緩い感じが好きな人も多く知っていますが、自分は曖昧が嫌いなので潔く白黒のつくドラッグレースが性に合っています。R32でドラッグを復活させて仕事にも張り合いが出ましたから」

 しかし、東日本大震災の影響で仙台ハイランドの日本で唯一のドラッグコースが平成25(2013)年に閉鎖。今やストリートゼロヨンも行われなくなり、R32は本領発揮の場所を失った。

「それでもこのBNR32は手放しません。ドラッグコースの復活を密かに待っています。そんなユーザーは意外と多いですよ」

 R32も今一度、千葉代表に華麗に操られることを望んでいるはずだ。

(この記事は2020年8月1日発売のGT-R Magazine 154号に掲載した記事を元に再編集しています)

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