高性能スポーツカーでは標準化が進む大型ブレーキキャリパー
レーシングカーや一部のハイパフォーマンスカーに採用される、ブレンボをはじめとする大型ブレーキキャリパー。しかし、純正で有名ブランドの大型キャリパーを装着している例はごく限られ、多くは「コレで大丈夫?」と不安に感じる見た目だったりする。
普通に考えればブレーキは事故の防止に大きく貢献し、高性能であればあるほど安全なのではないだろうか? というわけでスポーティさを前面に出した車種であっても、大型のキャリパーが採用されにくい理由を考えてみたい。
多くの市販車の使われ方ではオーバースペック
まず誰もが思い浮かべるのはコストの問題。自動車メーカーが威信をかけて送り出すようなスポーツカーは別として、市販車である以上コストダウンは決して避けて通れない大きなテーマだ。
アフターパーツとしてのブレーキシステムはキャリパーとローター、パッドなどすべてを含めると安くても30万円オーバーであり、サイズによっては前後セットで軽々と100万円を超えてしまう。スポーツカーといっても頻繁にサーキットを走るユーザーは多数派ではなく、常識的なスピードでの街乗りなら制動力も耐熱性も純正で十分間に合うのだ。
仮にサーキット走行がメインの使い方だったとしても、連続で周回しなければならないレースなどを除いては、パッド交換だけで事足りるケースが大半と思われる。要はほとんどの人はそこまでの性能を必要としておらず、コスト削減にプライオリティを置いているというわけ。
重量増やタイヤ&ホイールの大型化というデメリットも
さらにキャリパーやローターの大型化には、別のデメリットというか弊害も。ひとつは本来のホイールが履けなくなる可能性だ。社外のブレーキは最近でこそ純正ホイール対応の商品も増えたが、基本的には純正からのインチアップが前提と考えていいだろう。
当然ながらタイヤも径が大きくなるほど高くなり、扁平率が低くなれば乗り心地もハードに、そして段差などでホイールがダメージを受けやすくなる。加えてサイズが大きくなればタイヤの価格も上がり、維持費を気にするユーザーからは歓迎されにくい。
もうひとつは車重の増加。ブレーキ関連のパーツは俗にいう「バネ下」の重量に相当するため、1kgの軽量化がバネ上の10kgに相当するなんて説もあるほどだ。強い制動力が不要なのにブレーキを大型化しては、加速やコーナリングなどの運動性能はもちろん、燃費にも悪影響を及ぼすことが確実と思われる。軽さが命でもあるレーシングカーはトータルバランスを考えたうえで、メリットのほうが大きいと判断しビッグキャリパーを使っているだけなのだ。
ちなみにナンバー付き車両レースやN1と呼ばれる改造範囲の狭いカテゴリーでは、キャリパーやローターの変更が禁止されている。制動力向上はブレーキパッドの交換で、耐久性はブレーキダクトを引くなどレギュレーション内で対応している。