アメリカを気ままに放浪3カ月:40日目~43日目
これまで2度にわたりアメリカを放浪してきた筆者。還暦を過ぎた2022年4月から7月にかけて、人生3度目のアメリカひとり旅にチャレンジしてきた。相棒は、1991年式トヨタ「ハイラックス」をベースにしたキャンピングカー「ドルフィン」。愛称は「ドル」。ロサンゼルスから北上してオレゴン州に入り、ユージーンの街から海岸沿いに北へ向かいます。
6月8日 ハニーマン・メモリアル・ステートパーク
海岸線の町、フローレンスに着いた。今日の宿はハニーマン・メモリアル・ステートパークである。このあたりから南にオレゴン・デューンという砂丘がなんと64kmも広がっているという。これをひと目、見てみたかった。
キャンプサイトから砂丘に出るトレイルがあったので、さっそく出かけてみる。林の中を
それがトレイルと信じて進むと、突然、巨大な砂の壁が現れた。まさか、これを登るのか? 壁の下で躊躇したが、登った足跡もある。この壁の向こうに広がっているビーチを想像して勇気を振り絞った。
広大な砂丘で感じた遭難の恐怖
意を決して登り始めたが、あっという間に息が切れる。何度も休みながらようやく登り切ったが、目の前には砂の丘が延々と続くばかり。ビーチなどどこにもない。どうしたものかと思案していると、OHV(オフハイウェイ・ビークル、日本ではATV=全地形車と呼ばれる)に乗ったカップルがやってきた。この砂丘はOHVのメッカなのだ。言われてみれば、遠くからモーター音がいくつも響いてくる。
「どうしたの? 大丈夫?」「大丈夫だけど、ビーチはどこ?」「ビーチ? ずっと向こう。5マイル(8km)くらい先だよ。あそこの高いところまで登ると見えるよ。迷わないようにね」。たしかにうねりながら続く白い丘を歩き回ると、方向感覚を失いそうだ。
とにかく、まっすぐ行って自分の足跡をたどって戻ろうと思ったが、振り返ると足跡がすぐに風で消されてしまう。遭難の恐怖を感じながら、砂の上を歩いた。言われた地点まで行くと、遠くに波頭がちらっと見える。これはビーチに出るどころではない。オレゴン・デューンの凄さを味わって引き返した。
6月9日 ケープ・ペルぺチュア・キャンプグラウンド
翌日、海岸線を北上し、夕方、ペルぺチュア岬に着いた。ガイドブック『ロンリープラネット』がこの岬のトレイルをイチオシしていて、ぜひ歩いてみたいと思ったのだ。閉館の準備をしているビジターセンターに駆け込んで尋ねると、すぐ近くに公営のキャンプ場があることが分かった。そこにチェックインし、翌朝から歩き始めることにした。
ところが、夕食を済ませた頃から雨足が激しくなってきた。雨粒がルーフを叩く音が強くなる。初めての本格的な雨だ。トイレに行くにもレインコートを着なくてはいけない。明日の天気が気にかかる。
6月10日 土砂降りの大雨でキャンピングカーの車内に水滴!
翌朝も雨であった。あきらめて先に進むか、もう1泊するか、判断に迷う。そうするうちに雨が強くなった。チェックアウトして北に進むと、すぐにヤシャツという小さな町に出た。気分転換にカフェに入ってシナモンロールとコーヒーを注文した。
窓から眺めると、町の雰囲気がいい。店のWi-Fiを使って溜まったメールの返信などをしていると昼前には雨が上がり、町を散策すると居心地がよくて長居してしまった。ビューポイントにクルマを移動して海を眺めるうちに、もう1泊して明日の朝、トレイルを歩こう、という気になった。
ところが、これが大失敗だった。夕方から土砂降りの雨になってしまった。そして、夜、車内でワインを飲んでいると、信じられない光景が! なんと助手席側のコンソールからポタッ、ポタッと水滴が落ちている。雨漏りではないか!
モーターホームにとって雨漏りは天敵だ。慌ててコンソールの中をチェック、雨がにじみ出ている部分にタオル類を総動員して応急処置を行った。
雨漏り問題で先行きに大いなる不安
翌朝早く、逃げるように出発した。土砂降りは変わらず、雨漏りはひどくなるばかりだ。できるだけ北に逃げてみるしかない。気分は雨空以上に暗くなった。
途中の町のスーパーマーケットでなるべく水を吸収しそうなバスタオルを買って、雨漏りの箇所に当てた。手持ちのタオルはすべてびしょびしょだ。いったい、これから先、どうしたらいいのだろう。
一番の目標にしているワシントン州のオリンピック国立公園は、雨が多い温帯雨林だ。そんなところに行けるのだろうか? 長い旅の中で何度かのスランプがあったが、これが最初のスランプだった。
すっかり途方に暮れていると、目の前にコインランドリーが現れた。これだ! ととりあえず飛び込み、乾燥機でタオルを乾かした。
6月11日 ネハレムベイ・ステートパーク
アシカ洞窟に駆け足で寄りながら丸1日走って、ティラモックという町を過ぎたところで、ようやく空が明るくなる。いったい何日ぶりの快晴だろう。このときほど青空に感謝したことはなかった。
運転しながら、「サングラス、サングラス。サングラスはどこだっけ?」と、地図や資料に埋もれたサングラスを笑い泣きしながら捜索。もう何日もサングラスをかけていなかったのだ。
その後、ビューポイントでタオルを干しながら、ゆっくりとコーヒーを飲んだ。とりあえず、北に走ったのは正解。あとで天気図を見ると、ペルペチュア岬のあたりに、べったりと雨雲が停滞していた。
その日はビーチ沿いのネハレムベイ・ステートパークにチェックインした。ビーチに出てみると、家族づれが遊んでいる。久しぶりに乾いた夜となって、落ち込んでいた気持ちも少し回復した。
■「米国放浪バンライフ」連載記事一覧はこちら