エンジンのフィーリングやサウンドはガソリン仕様の4A-Gと同じ
「愛車を守るカーボンニュートラル」をテーマに、現在愛用している車両をカーボンニュートラル化する手法としてトヨタが提案するひとつの形が、この水素ハチロクということになる。
簡単に言ってしまうと、もともと搭載されているガソリンエンジンを水素エンジンへと改良することで、もともとのエンジンが持つフィーリングを維持したままカーボンニュートラル化を可能としたものだ。
ベースとなったAE86型スプリンタートレノに搭載されているエンジンは、言わずと知れた名機4A-G型だが、このエンジンのインジェクター、フューエルデリバリーパイプ、プラグなどを水素用に変更。トランクルームにはMIRAIに採用されている高圧水素タンクを搭載し、水素での走行を可能としている。
エンジンルームを一見するだけでは水素エンジンであることが判別できない仕上がり
すでにトヨタではスーパー耐久に水素を燃料としたエンジンを搭載した車両で参戦を続けており、この技術を転用したというわけだ。最低限の変更ということもあって、エンジンルームを一見するだけでは水素エンジンであることが判別できない仕上がりとなっている点も注目だろう。
ただ、過給機を持たない4A-Gをベースにして水素化したことで、現状ではノーマル状態の4A-Gの半分以下の出力となっているとのこと。ターボ化をすることで大幅に出力を向上させることは容易だそうだが、ベース車のNAエンジンらしいフィーリングを重視した結果、このような仕様になったそうだ。
燃料が水素になったとはいえ、エンジンのフィーリングやサウンドはガソリン仕様の4A-Gとほとんど変わることなく、前述したようにパワー感こそやや劣るものの、乗り味自体はAE86のままというのもうれしいところ。
ライトウェイトスポーツでもあるAE86がベースということで重量増加にも気を配っており、水素タンクを2本搭載していながらも車重は1トンを切っている点もマニアとしては感涙のポイントと言える。
3ドアのトレノでハイテックツートン(白黒)のボディカラーということで、ドアには頭文字Dを意識した文字が入れられているが、ベース車が後期型なのはご愛敬。というのもこの車両はトヨタ社内に長らく放置されていた車両がベースとなっており、水素化とともにレストアに近い補修がなされたそうだ。
ワンオフ部品は使っていない
インテリアに関しては、トランクスペースに水素タンクを搭載している以外ノーマル然としているが、フロントのバケットシートは中古品をリフレッシュしたリユースシートを採用。リサイクル素材を使用したシートベルトやシートベルトパッドを装着するなど、アフターパーツメーカーと一体となったカーボンニュートラルへの貢献を目指している。なお、この取組みはBEV化されたレビンも同様だ。
燃料をガソリンから水素に変更しているとはいえ、MIRAIやスーパー耐久に出場している水素エンジン車で使用している部品を流用しているため信頼性も高く、ワンオフ部品も使っていないというのはトヨタだからこそできること。
今すぐにガソリンエンジンを水素にしなければ公道を走ることができないというわけではないが、いずれ来るその日のために、今からトヨタがこのような活動をしてくれているというのは歓迎すべきことと言えるだろう。ただ現状ではガソリン車を水素車へ変更した際に車検を取得し登録をする法整備が追い付いていないそうで、トヨタとしては関係各所と協力し、登録にかかわる部分においてもアプローチを続けているそうだ。