オーバーヒートに負けず劣らず怖いオーバークール
エンジンが熱を持ちすぎる重大なトラブルが「オーバーヒート」。車好きの間では、エンツォ フェラーリが低速で山道を登っていてオーバーヒートしそうになったという話題で盛り上がっているようだが、負けず劣らず良くないのが、エンジンを冷やしすぎてしまう「オーバークール」だ。ノーマル状態では起きないが、チューニングの仕方によってはオーバークールになることがある。
オーバークールになると十分な性能を発揮できず各所に悪影響も
エンジンは冷却水(クーラント)の温度もオイルの温度も適温であることが大切。温度が高すぎるのも良くないが、低すぎるのも良くない。この温度が低すぎる状態を「オーバークール」と呼ぶ。
具体的には、エンジン冷却水の適温は80~100℃くらい。これも80℃が好ましいというわけではなく、それぞれのエンジンや車種によって、自動車メーカー側でターゲットにしている温度があるので、その温度に落ち着くのが理想だ。最近ではターゲット温度を上げて効率を上げようという狙いがあり、90℃以上で安定するクルマが増えている。
ざっくりした傾向で言うと、ここ10年のクルマは冷却水のターゲット温度が高い傾向にあり、いっぽう2000年代くらいまでのクルマでは80℃台がターゲット温度であることが多い。
これがなんらかの理由で70℃台とかそれ以下になってしまうとオーバークールとなる。温度が低すぎるとエンジン制御コンピュータ側で水温を上げようとする補正が働く。具体的には燃料噴射量を増やすことが多く、燃費が悪化する。走行中ずっと無駄にガソリンが濃い状態になるので燃費悪化のほか、パワーもイマイチ。排気系の触媒などに悪影響を及ぼす可能性もある。
まずはサーモスタットの役割を理解しておこう
通常、ノーマル仕様のままのクルマではこういったことはまず起きない。チューニングカーで気をつけたいのが冷却系のカスタムだ。よく「ラジエターを交換するとオーバークールになる」と言われるが、それは微妙な表現。たしかにラジエターの放熱量が上がれば温度は下がるが、エンジン冷却系にはサーモスタットが付いているからだ。
サーモスタットは設定温度になるまでエンジン冷却水をラジエターに回さずに、エンジン内だけを循環させる。エンジンが温まったらサーモスタットが開いて、ラジエターに冷却水を回して温度を下げ始める。
再び温度が下がってくるとサーモスタットが閉じて、またエンジン内だけを冷却水が循環する。そして、またサーモスタットが開いてラジエターに回す、ということを繰り返している。
一般的にはラジエターの放熱量は十分にある。坂道を一生懸命登ったりしてもオーバーヒートしないように、純正でも冷却系のキャパシティは十分に確保されている。普通に一般道を走っているときも、サーモスタットはつねに開いたり閉じたりを繰り返している。すなわち、サーモスタットの開く温度と閉じる温度を、エンジン冷却水の水温は行ったり来たりしているのだ。