BMWラインアップに加わったかもしれないワンオフのクーペ
第二次世界大戦後の混乱期を経て、1960年代には会社の経営状態も徐々に落ち着きを見せはじめたBMW。そんな時代に作られたワンオフのクーペがこのBMW「ハリケーン」だ。この手のショーモデルといえばメーカー自らが提案するコンセプトカーや、名のあるカロッツェリアが手がけるプロポーザルモデルが一般的だが、このハリケーンの出自はそれらとは異なる、興味深いものだ。
スイス出身のデザイン学生が卒業制作した「原寸」モデル
ドイツ南西部ラインラント=プファルツ州のカイザースラウテルンの教育機関で自動車デザインを学んでいたスイス出身の学生、マックス・ゼーラウス(Max Seelaus)。彼は在学中の1965年、車両構造科の卒業論文のために同級生らとともにワンオフのプロポーザルモデルを作ることにした。
一般的にはプロダクト・デザインを学ぶ学生が卒業制作などのテーマに「クルマ」を選んだ場合、その立体のプレゼンテーションにはスケールモデルを用いることが多く、もちろんそれらは実際には動かないのであるが、ゼーラウスはもっと実践的なリアリティを目指していた。すなわち、実際に公道を走れるだけの機能も備えた「原寸」のプロポーザルモデルだ。
BMWが「1800」のシャシーとパワートレインを提供
もちろん学生がゼロからシャシーやパワートレインを用意することは難しい。そこでゼーラウス青年は、当時BMWの技術責任者であったヘルムート・ヴェルナー・ベンシュを訪ねる。ちょうどその頃BMWは小型のリアエンジン車、「700」シリーズの生産を終了したタイミングで、同社のラインアップからスポーティなクーペが抜け落ちている状況であった。
◎BMW LIFE (af imp LIFEシリーズ) (CARTOP MOOK)
BMWのベンシュは「卒業論文のためにオリジナル・デザインのクーペを作りたい」というゼーラウスの申し出に対し、「ノイエ・クラッセ(新たなクラス)」として有名な新世代モデル、「BMW 1800」のシャシーとパワートレインを提供したのである。