さまざまな車種のパーツを流用して流麗なクーペが完成
BMWのヘルムート・ヴェルナー・ベンシュとデザイン学生のマックス・ゼーラウス、双方には「この“卒業制作”がきっかけで、BMWのラインアップに新型クーペが加わるかもしれない」という期待もあったことだろう。ゼーラウスは仲間とともに、自身のデザインを具体的な形にしていった。
◎BMW LIFE (af imp LIFEシリーズ) (CARTOP MOOK)
前述のようにシャシーとパワートレインはBMW 1800だが、ラジエターはNSU「Ro80」、計器類はジャガー「XJ6」、ヘッドライトはボルボ「122」、テールランプはフィアット「850スパイダー」、そしてフロントガラスはフェラーリ「250LM」(!)と、さまざまな車種のパーツも巧みに流用したBMWハリケーンは、のべ約1万2000時間という作業を経てついに完成。22歳でプロジェクトを始めてから2年後の1967年、マックス・ゼーラウスは無事、卒業証書を受け取った。
タイミングに恵まれず歴史の波間に消えるも、個体は健在
しかし歴史とは、時に人々の運命を大きく変えてしまう。ハリケーンが完成した1967年、ミュンヘンのBMWは同じドイツの中堅自動車メーカーであったハンス・グラース社を買収。同社が販売していた「グラース1300/1700GTクーペ」をベースに仕立て直し、BMW「1600GTクーペ」としてリリースしたのだ。
ゼーラウスと彼の仲間が作り上げたBMWハリケーン・クーペは、いまやBMW本社にとっては無用の長物と化したのである。ゼーラウスは失意のなか、母国スイスにもどりBMWハリケーンの量産化を独自に模索するが、チューリッヒの道路交通局から正式に認可が降りたのは1975年のこと。
現車はその後1977年のジュネーブモーターショーにも出品され、それなりの話題にはなったものの、すでにプロジェクトの開始から10年もの月日が流れており、もはやBMWハリケーンの量産化は現実的ではなく、マックス・ゼーラウスの夢は潰えた。
ただ幸いなことに、このBMWハリケーンは現在スイスの熱心なBMWコレクターの元で息災だという。
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今では知る人も少ない悲運のBMWハリケーンだが、ドイツのミニカー・ブランド「オートカルト」から1/43ミニカーがリリースされている。オートカルトという名前からも推測できる通り、同社は歴史の波間に消えていったさまざまな名車・珍車ばかりを少量生産しているユニークなモデル・メーカーだ。
■Auto Cult(オートカルト)
車名:BMW Hurrican 1964 (BMWハリケーン)
定価:2万2000円(消費税込)
型番:60064
問い合わせ:国際貿易 https://www.kokusaiboeki.co.jp