大学の自動車部が競技車両を展示
「OAM2023」の会場では、有名メーカーやプロショップが作り上げたデモカーが所狭しと並ぶなか、異彩を放っていた車両が「KINDAI BIGBLUE RACING GR86」だ。どうして一般の大学の自動車部がカスタムカーの祭典と言われている「OAM」に出展したのだろうか。
参戦計画をしっかりと練って新車のGR86導入が決まる
整備士やエンジニアを育成する自動車に特化した学校の出展はこれまでもあった。しかし一般の近畿大学、しかも自動車部による出展は、大阪オートメッセの歴史を振り返っても初めてではないかと思われること。ここに至るまでのプロセスを同部の木暮陵弥さんに聞いた。
近畿大学(近大)自動車部は全日本学生ジムカーナ選手権での優勝から久しく遠ざかっており、3回生として部を牽引する立場の木暮さんは、捲土重来を胸に期していたという。とはいえ競技の世界は意気込みだけで勝てるほど甘くない。ドライバーの技量や車両の作り込みより先に、部としての体制を整えることが先決だと判断。そこで昨年は新入学生の勧誘に力を入れた結果、女子4名を含む41人という大所帯に膨れ上がった。
ただしジムカーナ用の競技車両は年季が入ったEK9型ホンダ「シビックタイプR」で、決してポテンシャルが高いとはいえない状況だったとのこと。必然的に新たなマシンの導入を学校に訴えることになるが、もちろん最初から新車を買えるほどの予算が下りるはずもない。参戦計画などのプランを練りに練って交渉を繰り返し、なんとか「GR86」の購入にこぎ着けたと木暮さんは振り返る。
チューニングのためスポンサー活動も精力的に行った
次に立ちはだかる壁は競技車を作るためのチューニングパーツであった。発売されたばかりの新型車だけに中古の部品はほとんど出まわっておらず、かといって勉強が本分である部員たちの自己負担で賄えるような金額ではない。
そのためディクセルやレイズといったメーカーに協賛を依頼。最初は難航したがクルマ好きの若者を応援したい業界人も多く、必要なパーツを集めて大阪オートメッセへの出展も実現させた。ツテやコネがほとんどないなかでのスポンサー活動だったが、人とのコネクション作りをはじめ人生の糧となる経験も積み、自身の今後に役立てつつ後輩たちに伝えていきたいとのこと。
車両の製作は大半を自分たちで行った。前述のとおり自動車の専門的な知識を有しているワケではないため、それを補うため41人の部員による徹底した分業制を敷いたそうだ。駆動系やサスペンションといったセクションごとに担当を決め、アクリルガラスの加工からスポンサーのステッカー貼り込みまで、日本で最多といわれる部員数が大きな武器になったと木暮さんは振り返る。
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今後は悲願である全日本学生ジムカーナ選手権での優勝を目指すと同時に、自分たちが実践してきた一連の活動を「新しい時代の自動車部」とし、今回のようなイベント出展などさまざまな方法で全国に発信していきたいそうだ。不可能と思える壮大な目標を叶えた近大自動車部、さらなる飛躍と後進の育成も大いに期待したい。