F1などのレーシングマシンから派生した180度V型12気筒エンジン
それでは365GT4/BBのメカニズムについて、もう少し詳しく紹介していきましょう。まずはエンジンから。
フェラーリの市販モデルとして初のツインカム・ヘッド(V型エンジンなので4本カム)が組み込まれたV12エンジンを搭載したモデルは1966年に登場した「275GTB/4」で、「275GTベルリネッタ」に搭載されていた3.3Lの60度V12をツインカムで武装していました。この275GTB/4の後継でフェラーリの新たなトップモデルとなったのが68年に登場した「365GTB/4デイトナ」でした。60度V12エンジンは排気量が4390ccまで拡大されたことから365(1気筒あたり排気量)を名乗っていました。
そのため365GT4/BBも同じエンジンと考えられがちですが、こちらは「BB」=ベルリネッタ・ボクサーのネーミングからも分かるように、バンク角を広げた180度V12エンジンとなっています。4390ccの排気量(とボア×ストローク)は共通していますが、最高出力は365GTB/4デイトナの352psから365GT4/BBでは380psまで1割近くパワーアップしています。
そこには当時、F1GPやメーカー選手権などで活躍していたティーポ001エンジンの開発が大きく関与していたとも言われています。レーシングカーでは180度にバンク角を広げたことで重心が低くなるという大きなメリットもあったようですが、365GT4/BBではコンパクトにまとめることを優先し、エンジンの下方にミッションとデファレンシャルを抱え込むレイアウトとなり、結果的に重心高が高くなるというデメリットが生まれたようです。
シャシーは1964年にデビューした250LMや、67年登場のディーノ206GTなど市販フェラーリとしてミッドシップ・レイアウトを採用していたモデルを参考に、キャビン部分をボックス断面のラダーフレームと鋼板製のフロアを組み合わせたセミモノコックとし、その前後に組み合わされたサブフレームにサスペンションを組み付けるパッケージとなっていました。サスペンションは前後ともダブルウィッシュボーン式でフロントはシングルのコイルスプリング、リアはツインのコイルスプリングで吊られていました。
流麗かつスポーティなデザインは不朽の名作
デザインを担当したのは、ピニンファリーナのチーフデザイナーを務めていたレオナルド・フィオラヴァンティです。そのスタイリングはライバルたるランボルギーニのカウンタックに比べるとコンサバティブに映りますが、ボディの中央部分をスチールで、ドアとフロント&リアセクションをアルミで構成。さらにフロント&リアセクションの下半分とバンパーにはグラスファイバーで成形したパーツを使用するなど軽量化が追求されていました。またフロント&リアセクションは、ヒンジを支点にして、それぞれ前方と後方に回転して開閉できるようにされていて、サービス性も考慮されていました。
最後になりましたが念のために車名について解説しておきましょう。先にふれたように「365」は1気筒当たりの排気量(4390cc÷12気筒≒365.83cc)で、「GT」はグラン・トゥリズモ(Gran Turismo)=レースにも参加する高性能車種や優れた走行性能を持つロードカーといった意味合いです。「4」は4本カムシャフト、つまりはV型エンジンのツインカム仕様のことで、「BB」はベルリネッタ・ボクサー(Berlinetta Boxer)の略。「ベルリネッタ」はセダンを意味するベルリーナ(Berlina)に小さいこと/ものを示す縮小の接尾語が付いたもので、意味合いとしては2ドアクーペを示し、「ボクサー」はスバルなどでおなじみの水平対向エンジンを意味しています。
ただし実際に365GT4/BBに搭載されていたエンジンは、水平対向12気筒エンジンではなくバンク角が180度のV型12気筒エンジンでした。もっとも水平対向12気筒と、バンク角が180度のV型12気筒は外観からは判別が難しいこともあり、このネーミングに異を唱える声はあまり聞かれません。