「族車」=「日本独自のカスタム文化」
クルマ好きの好奇心をくすぐるマシンは数多くあるが、その物珍しさから思わず見入ってしまうのが「族車」であろう。普通の仕様では満足できない男達が作るクルマには、特別な魅力があり、見ていてワクワクさせられる。自分だけのオリジナルスタイルを追求した彼らのクルマは、似ているように見えても、実は細かい点が違っていてそれぞれに個性をアピールしている。それが彼らの愛する「族車」の世界だ。
若い頃を思い出して「福岡仕様」を再現
日本では特に改造車を代表する族車に対する風当たりが強いが、海外の見方は少し違っていて、族車をアートなカスタムカーとして紹介する例が数多くある。現在、「ZOKUSHA(族車)」という言葉と仕様は、日本独自のカスタム文化として世界のカーマニアが認める存在になっている。
そんな族車であることをド直球で表現したマシンが「OAM2023」の会場にも数台展示され話題なった。中でも、ひと際ド派手なカラーリングで注目を集めたのが大阪市北区にショップを構える寿し門司の店主、門司知治さんが所有する青春時代の愛車だ。
ベースが何かわからないほど改造されたこのクルマの正体は、GX71マークIIだ。ハイソな街道レーサーが登場しはじめた時代、ただ引っ張りタイヤにノーサスのシャコタンにするだけでは個性がないとばかりに誕生したのが、カラーリングによる主張である。このクルマも派手にオールペンされているが、街道レーサー界ではこのペイントは有名で、俗に「福岡仕様」と呼んでいる。
門司知治さんの出身は北九州だったので、若い頃に乗っていたクルマを思い出し、この福岡仕様のクルマを再現したというわけだ。当時は未熟な技術でなかなか綺麗に塗ることが出来なかったが、現在は技術も道具も発達したことで、昔ほど苦労することなく青春時代の福岡仕様を作ることが出来たと話してくれた。
街道レーサー仕様のニュースクールとは
このGX71マークII、派手なカラーリングばかり注目されるが、実はそれだけでなく、新旧パーツを組み合わせたニュースタイルの街道レーサーであったことが、今回の取材で判明した。
フロントは定番のロングノーズにジャパンレース用スポイラーを装着し、外出しオイルクーラーをセット。フェンダーはオーバーフェンダーを使わずに叩き出しによって処理し、ミラーは昔懐かしビタローニF1ミラーを装着。フロントウインドのハチマキには、お店の看板に族車らしく「麗心愚」の文字を加えて主張する。
ここまでは、いわゆる街道レーサー仕様としてのオールドスクールの部分である。装着しているパーツはまさに当時流行ったスタイルだ。
では、ニュースクールの部分はどこかといえば、それはサスペンションにあった。昔であればノーサス、あるいは純正サス2巻半カットがセオリーだったが、このクルマには車高の上げ下げを自在に行えるエアサスを装着していたのである。
今どきの便利なモノを積極的に使いながらも、昔ながらの族車の部分はちゃんと残したリメイクを施す。これが寿し門司の店主・門司知治さん流のニュースタイル街道レーサーだった。
また、ペイントにおいてもボディ全体にラメを使って輝かせる手法は当時はなかった。こちらも今風のアレンジと言える部分だろう。
最後に、このクルマに実際に走らせているのかを訊ねてみた。さすがに普段から乗ることはなく、イベント用に向けたショーモデルとして展示することがメインとのこと。
「さすがに良い歳なので、昔のようにギンギンに走るわけにはいかないですよね。なので、大阪オートメッセの会場でこのクルマを見て、みんなが若かったあの頃を思い出してくれたら嬉しいな、という気持ちで出展しました」