ホンダスピリットが詰め込まれた1台だった
CR-Xと聞くと、初代、2代目の低く構えたシルエットとリアを切り落としたコーダトロンカスタイルが特徴の鋭い切れ味を持ったFFスポーツという印象が強いかもしれない。それだけに3代目にフルモデルチェンジを果たしたタイミングで「デルソル」のサブネームを付け、オープントップモデルとなったことを嘆く声も多く聞かれたと、まことしやかに言われている。
ギミック感満載の動きが特徴の電動トランストップ
しかし実際のところは、2代目CR-Xも走りには不向きなグラストップ仕様が販売の大半を占めていた。デルソルのベースとなったEG系シビック自体がワイド&ローなスポーティなスタイルとなったことで、CR-Xは当時のユーザーが求める方向へ舵を切ったというのが本当のところだろう。
そんなCR-Xデルソル最大の特徴は、やはり開閉可能なハードトップということになる。これはオープンエアモータリングの楽しさと、クーペの耐候性を両立したいと考えたホンダの答えでもあった。
なかでも電動でルーフの開閉が可能な「電動トランストップ」仕様はギミック感満載の動きが特徴。車内のロックを解除してボタンを押し続けるとトランクリッドが水平に上昇し、そこからアームが延びて後端がチルトされたルーフに差し込まれ、そのままルーフをトランクリッド内に格納したのちに下がるという凝った動きをするものだった。時間にするとおよそ45秒と決して速いわけではなかったが、ホンダの拘りが詰まった装備と言えるだろう。
ちなみに手動で脱着をし、自らトランクリッド内にルーフパネルを収納するマニュアル式オープンルーフも存在していたが、こちらは人力で脱着することを考慮して、軽量なアルミ製となっていたところもホンダらしい。
リアにパワーウインドウを採用し開放感を高めた
またオープン走行時の風の巻き込みを考慮して、ドアにはクォーターウインドウを備えたほか、開閉可能なリアパワーウインドウを採用するなど小技も満載。この開閉式リアリアウインドウはS660にも採用されている。
確かにもっとも重い仕様では1200kgという車両重量に達してしまったCR-Xデルソルは、ピュアスポーツカーとしては物足りなさを感じるクルマだったかもしれない。しかし、当時のリリースにも「パワーやスピードでは語りきれないスポーツの楽しさもある。」とあるように、新たな価値を創造しようとしたホンダスピリットのカタマリのクルマだったと思えば、その見え方も変わってくるのではないだろうか。
AMWのミカタ
オープンカーが幌からバリオルーフへと変わる嚆矢となったのは、1996年に登場したメルセデス・ベンツ「SLK」である。スーパーカーでは、2011年登場のフェラーリ「458スパイダー」あたりから、リトラクタブル式のハードトップ台頭するようになる。CR-Xデルソルの登場は1992年であることを考えると、やはりホンダは時代の一歩先を行っていたようだ。半歩先ならば時代の潮流になったのではないかと思わずにはいられない。