現在はあらゆるカテゴリーのレースで義務化されている安全装備
F1から国内レースまで、今やあらゆるレースで義務化されている安全装備が「HANS(ハンズ)」。ヘルメットの後方に付けるもので、テザーと呼ばれる紐でヘルメットとつながる。その目的はクラッシュ時の首へのダメージを防ぐ重要なものなのだ。
クラッシュ時の頸椎へのダメージを防ぐために開発された
HANS(ハンズ)とは「ヘッド・アンド・ネック・サポート」の略。本体を肩に乗せて、フルハーネス(4点式や6点式シートベルト)とともに締めて固定する。その本体から伸びるテザー(紐)をヘルメットに取り付けるというパーツだ。
その狙いはクラッシュ時に首が伸びることを防ぐ。首は多くの骨とその間の椎間板からできていて、大きなクラッシュに遭うとその骨と骨の隙間が引っ張られて伸びてしまう。
フルハーネスをガチガチに締めていても、ヘルメットとステアリングがブツかることが普通なほど、首は伸びてしまう。そのときに顔面骨折や目などに重大なダメージを負うこともあり、それらを防ぐ効果もあるが、もっとも心配なのは首が伸びることによって神経を傷つけることがある点だ。
大きな外傷がないのに頚椎を損傷して、腕に麻痺が残ったとか、半身不随になってしまった例などが数多くあり、それらのダメージを防ぐために開発された。
ヘルメットにアタッチメントを付ければ使用可能
なお、HANSは特定の企業の商品名を指すため(ホチキスやキャタピラと同様)、「FHRシステム(Frontal Head Resistant System)」や「FHRデバイス」とも呼ばれることもある。また、シンプソン製など身体にハーネスを取り付けるタイプもあり、シートベルトを挟まずに使えるものもある。
ヘルメット側には専用のアタッチメントを取り付け、そこにテザーをワンタッチで固定でき、外すときもワンタッチで外せる仕組みになっている。この規格は統一されていて、異なるFHRデバイスでも使えるようになっている。
ヘルメット自体はアライやBELL、SPARCOなどいずれも対応している。そこに市販のアタッチメント(9000円前後)を取り付ければHANSを使えるようになるのだ。
極端な話、首が引っ張られることを防ぐだけならシートからテザーを伸ばしても良さそうだが、そうなると脱出時などにシートベルトを外す+テザーを外すアクションになってしまうため、現在の形になっているようだ。
2000年前後から世界的に普及し始め、現在日本のレースでは公式レースのすべてのカテゴリーで着用が義務化されている。ヘルメット+HANSを装着しないとレースには出られないのだ。
HANSを使うには6点式ハーネスと対応シートが必須
そこで重要になるのがフルハーネスだ。これまでは4点式が一般的だったが、HANSにともなって4点式はレースでは使用できなくなった。HANSを正しく作用させるためにはシートベルトをキツく締める必要がある。4点式シートベルトは腰のベルトを相当強く締めておかないと、肩ベルトをグイグイ締めるとバックルごと持ち上がってしまうことがあった。そうなるとクラッシュ時に内臓にダメージを与えやすく大変危険だ。
そこで股下2箇所に固定したハーネスを下からバックルに差す6点式が義務化となった。一時は5点式という股下から1本のベルトが伸びるタイプもあったが、現在はより強固に固定できる6点式が義務化されている。股ベルトがあるため、肩ベルトを強く締めてもバックルがズリ上がることはない。しっかりとカラダが固定できることで、HANSの効果もキッチリと発揮できる。
あわせて、シートも股下ベルトを通すための穴の開いたモデルでないと対応できなくなった。昔のクルマで使っていたシートと4点式ベルトはもはや使えなくなったのである。
極論、レースに出るわけではないのなら4点式ベルトでHANSを使っても効果がなくはない。しかし、本来の効果を発揮させるには6点式ハーネスを選んでもらいたいところだ。
初心者でもヘルメット+HANS装着が現代の常識だ
「HANSはもっと速く走れるようになったら導入したい」という人も多いが、大きな間違い。プロでもアマチュアでも速度に大差はない。プロが160km/hで走るところをアマチュアの初心者でも100km/hは出ているはずである。ちょっと慣れた人ならプロと数km/hしか変わらない。その速度からクラッシュしたら多大なるGが掛かる。首にも大きな負担が掛かり、ダメージを負ってしまうこともある。
そういった怪我を防ぐためのパーツなので「まだ自分は遅いからHANSなんて恥ずかしい」とか、「首が回しにくいので装着しない」とか言っている場合ではないのである。世界的に義務化が進められていて、レースの世界ではHANSをしないのはヘルメットを被らないのと同じことなのである。これからはサーキットを走る全員がHANSを使用してもらいたい。