ついついニヤケてしまう? 楽しさいっぱいのビックリ箱
「ホンダライフのすぐれた駆動力と足まわりを備え、ゆったりとした居住性とかさばる荷物も無理なく積める大きな荷台スペースを確保した近代感覚あふれるスタイルのユニークな車です。(原文ママ)」これは1972年夏の発表当時に、ホンダから発信されたプレスリリースの文言である。
実際にライフ・ステップバンに触れてみると、この堂々たる触れ込みに誤りはなかったこと、そして、当時のホンダの意気込みがよく理解できる気がする。公式資料のスペックシートによると、車両重量はベースとなるライフよりも60kg以上も重い605kg。360cc規格時代の軽自動車としては大柄な車体をわずか30psの2気筒エンジンで走らせるのだから、お世辞にも速いとは言えない。
しかも、このエンジンは6000rpmでトルクピークを迎える高回転型で、商用車ゆえにファイナルギヤ比も低め。だから現代の交通の流れに合わせて走らせるのは、正直なところ相当に冒険的な行為となるのだが、それがワクワクしないと言えばウソになる。
トラックのように寝かされた大径のステアリングホイールを抱え込み、スポーツカーのようにシャープな吹き上がりの360ccエンジンをなだめすかすように発進する。超ローレシオの1速から、早々に2速にシフト。ここで初めてスロットルを深く踏み込むと、ホンダ「N360」の空冷エンジンから継承された「ビィイイイイ~ン」という、いかにも直列2気筒っぽいサウンドと振動が車体全体に共鳴してくる。たしかにうるさいけれど、一定以上の年齢を重ねたクルマ好きにとっては、とても懐かしいものだろう。
そしてタイヤは、前後とも10インチ。サスペンションはこの時代の商用車ゆえに、フロントこそマクファーソン・ストラット式の独立ながら、リアはリーフ・リジッド。10インチの小径タイヤも相まって、空荷状態では路面の凹凸をガタガタと拾ってしまう。また前後とも小径のドラム式のブレーキは、制動力/作動に要する力ともに時代を感じさせる。
それでも、この猛烈な楽しさはなんだろう……! ふと気づけば、ルームミラーにはニヤニヤ笑う自身の姿が映っている。
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もちろん、現在のホンダに「志」が感じられないなどとは決して思わない。でも、ホンダらしい「志」と運転する「楽しさ」が直結していたかのようなこの時代のモデルには、この上ない魅力を感じてしまうのも正直な心情である。
この先、電動化への道を突き進むというホンダながら、こんなビックリ箱のようなクルマを平気でマーケットに送り込んでくるような、創意工夫のスピリットを忘れないでほしい。田舎道でこのクルマと格闘しながら、そんなことをガラにもなく祈ってしまった筆者なのである。