日産の女神湖試乗会で最新FRスポーツカーに乗ってみた
日産が2023年1月に長野県の女神湖で開催した氷上試乗会に参加し、最新の電動4WD「e-4ORCE」を搭載したEV「アリア」やSUV「エクストレイル」など、多彩なモデルを乗り比べてきました。今回は、まともに走れるのかどうかすら心配になるFRスポーツカー、RZ34型「フェアレディZ」のレポートをお届けします。
RZ34型フェアレディZの走りの特性をほぼ氷上コースで検証
日産が毎冬に開催している雪上試乗会。今年は「アリア」と「エクストレイル」に採用された電動4WD「e-4ORCE」が目玉で、実際にその電動駆動の強みを活かした前後左右輪の緻密でいて巧みな駆動力制御の威力は、極めて滑りやすい氷雪路面でのドライブでも、これまでとは次元の違った、有効なトラクションの確保はもちろんのこと、ドライバーの意思を汲み取るようなライントレース性と安定性を備えたものに仕上がっていた。
それを知ってもらうのが最大の狙いだったのだろうが、日産の広報部が粋なのは、その一方で、氷上はもちろんのこと雪上でも、苦手な部分がクローズアップされることになる「フェアレディZ」までを用意してくれていること。それとともに毎回「GT-R」も用意されており、日産のスポーツカーを、得手不得手を含めて楽しんで、知ってもらいたいというサービス精神を発揮している。
2022年は先代フェアレディZのNISMOが用意されていたが、今年は新型RZ34フェアレディZのバージョンSTの、それも6速MT。昨年のNISMOは足が硬いこともあり、結氷した女神湖では手懐けるのに手こずったが、これまたドライバーのスキルが試されそうだ。
この日の気温は朝の走行開始時で-17℃、日中で-8℃といったことろで、幸い、昨晩より降った雪により、とくに朝のうちは氷盤の上に少しだけ雪がのったようなかたちで、完全な氷面よりは多少なりとも走りやすい状況だ。
VDCがかなり早めに介入する安定志向のハンドリング
まずは、リアルワールドでは普通そうするであろうVDC(ビークルダイナミクスコントロール。ESCとも称される)オンのままでスタート。Zの車重は1620kg。これに対して前後重量配分は約57:43。よく言われる50:50がFRとしての理想かどうかは是非があるとして、若干のフロントヘビーであることは事実だ。静止状態では駆動輪(後輪)の接地荷重は、前輪より少ないということになる。
それでも、1速でそろりとスタートさせてひと転がりしたかしないかの間にTCS(トラクションコントロールシステム)が、それこそ全力で作動介入してくるので、即座に2速に入れて過剰な駆動力を与えないようにアクセルワークに気を使いながら、大半をTCSに任せて駆動力もエンジンパワーも制御してもらいながら、加速をさせていく感じだ。
もしもアリアのe-4ORCEなどと横並びで発進をしたなら、あっという間に置いていかれそうなくらいに、なかなか車速は伸びていかない。最大トルク475Nmを発生する3Lツインターボエンジンも、ここでは宝の持ち腐れで、むしろ無駄にトルクを高めないようにアクセルワークに気を使いながら、とにかく早めに3速までアップする。
幸いコーナーへの進入は、フロントヘビー傾向であることが幸いして、ブレーキングのタイミングと進入速度が適切であれば、この路面でも舵は効きやすいほう。思ったよりも楽にノーズはインに向かってくれる。
ただ、後輪駆動の宿命として、こうした路面では、ステアリングの舵角を与えている限り、ちょっとした駆動力の超過でリアは流れ出すことになるため、向きを変えつつあるなかでも、変わったあとでも、姿勢の乱れが抑えられなくなる前のタイミングで、それもかなり早期にVDCを介入させて、エンジン出力を徹底して抑え込んでくる。
こうした状況に陥ると、ドライバー的にはなかなか前に押し出してくれない感覚が強くなるので、正直かなりもどかしいコーナリングとなる。でも、これが現実として安定したままに旋回できる領域ということ。
これはZに限らず、とくに高出力の後輪駆動車では常識的な制御ではあるのだが、新型Zの場合は、ドライ路面でも限界手前の比較的早期にVDCの介入をさせることは確認していたので、思想として安定サイドに振ったハンドリングが信条となっているようだ。
VDCオフでも機械式LSDでどうにか加速できる
そこで、次の周回はVDCをオフにしてみると、それこそ発進から洗礼を受けることになる。1速か2速のどちらで発進させるか迷うところだが、ここはVDC作動時との違いを知るために1速からとした。ほぼアイドリング回転のままにクラッチを優しくつないで最小限の空転で動き出すことはできても、そこからの加速は、わずかなアクセルの踏み込みでも後輪が激しい空転を生じることになる。
それでも、新型ZはバージョンSとバージョンSTには機械式LSDが備わるので、リアを左右にわずかに振りつつも、クルマを前に押し出していく。発進直後には即座に2速へ、それでも空転は続くので早めに3速へ。ここでようやく、効率として理想とされるスリップ率30%以下くらいに、なんとか抑えられたかなと感じながらの加速が可能になるのだった。
ここまでくるとVDCオンの際を凌ぐと思える加速力を得ることができる。左右に振られそうになる姿勢をステアリングのすばやい修正で抑え込みながら、最初のコーナーへに向けて、なるべく雪が少しでもある路面に内輪を乗せるようにしながら、かなり手前からブレーキングを開始する。
ほんのわずかにフロントに荷重を残しつつ、ステアリングを早めのタイミングでゆっくりと切り出していく。操舵スピードが無闇に速ければ、前輪がコーナリングパワーを得られる切り角をすぐに超えてしまい、タイヤが向きを変えてもクルマの向きを変えるグリップが得られないことになってしまうからだ。
コーナリングはジワジワ前進させるのもひと苦労
こうしてノーズをインに向けたら、旋回中はわずかなオーバーステア姿勢を保ちたいところ。だが、柔軟性に長けたツインターボエンジンとはいえ、自然吸気エンジンほどにはトルクを穏やかに立ち上げることが難しく、今回の氷盤に近い路面では、気を抜くとイッキにリアが大きく流れるてしまうことになりがちだ。姿勢を思ったように一定に保つのは思っていた以上に難しい。
もう少しトラクションが得られるグリップを保てる路面状況なら、ここからアクセルワークで適度なドリフトアングルを保っていくことも可能なのだが、どうしてもエンジントルクが過剰気味となりがちで、リアが一瞬にして滑っていき、無闇に深いドリフトアングルに陥りやすい。
スピンにまで至らなくても、こうなると、アクセルを少し戻して姿勢が戻ってくるのを待つしかない。アクセルを踏む右足先に神経を注ぎながらも、好ましいドリフトアングルを維持しつつジワジワと前に進めていくことの難しさを知るに、VDCが早期に作動介入させていることの意味を、あらためて悟らされることになるのだった。
先代Zゆずりのブリッピング機構がありがたい
それでも機械式LSDがなんとかトラクションを稼ぎ出してくれるので、左コーナーから右コーナなど反転する際に、リズムがうまく整えば振り返しの慣性をうまく使いながら向きを変えていくことはできるので、それこそスノーダンスよろしく駆け抜けていく(それでも華麗に舞うほどに速度は上がっていないが)ことは可能だった。
こうしたなかではとくに、先代とともにZのMTが素晴らしいのが、ダウンシフト時に自動でブリッピングをして、エンジン側とトランスミッション側の回転数をピタリと会わせてくれるシンクロレブコントロールが備わること。おかげでとくに滑りやすい路面で起こりやすい駆動輪ロックによる姿勢の乱れを防いでくれるので、ダウンシフトを構える必要がないのは本当に助かる。
ちなみに、この制御は先代フェアレディZのMTが初めて採用したもので、後にポルシェをはじめ、多くのスポーツカーが採用することになった優れものである。
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結局、e-4ORCEなどに比べてしまうと、どうやっても速くは走れないのだが、これはこれで振り回しながら楽しめませてもらえたし、さらには今更ながらドライビングの鍛錬にもなる、というものだった。
FRは、とくにドライ路面では爽快なハンドリングを提供し、クルマを高度に操る喜びを与えてくれる一方で、滑りやすい路面では途端にドライビングにシビアさが加わる。それでも新型フェアレディZは、大排気量ターボエンジン搭載のFR車としては、さらにホイールベースの短さを考えると乗りにくい方ではないし、そのうえで必要な制御をきっちりしていることを確認できたのは有意義だった。